キャラクター詳細
誰しも力に憧れ、誰しも争いを避けられない。
ある者は部族を守り、アビスに抗うため争う。ある者は自分が他者より優れており、偉大な人物で、そして誰よりもモラや美酒、権力や賞賛に相応しいことを証明するために争う。
しかし、いかに争いを好む人であろうと、ある名前を耳にすると震え上がってしまう——それが「チャスカ」だ。
チャスカがひとたび戦場に現れれば、どれほど激しい争いであろうと瞬時に収まってしまう。
弁の立つチャスカは交渉に長け、さらに人間性もよく理解しているため、皆が満足する解決案を提示できる——というのは理由の一端であり、それよりも効果を見せている面がある。
それが彼女の力だ——その「調停者」の実力があまりにも抜きん出たものであり、常軌を逸した戦い方をするためである。彼女に正面から挑むことは、生まれたての赤子が手ぶらで凶暴なクク竜に挑むことに等しい。
争いに傾倒する者であっても、往々にして強大な力には恐れるものだ。自分の力を遥かに上回る者に対して、冷静に交渉することこそが最善の選択だと彼らも理解している。
ただ、どうにも引っかかる点がある——何故チャスカは毎回、都合よく争いの中心に現れるのだろうか?
正確かつ適したタイミングで、まるで争いに引き寄せられるかのように…それはまさに、「獲物」の匂いを嗅ぎつけた「猛獣」の行動にそっくりと言える。
キャラクターストーリー1
チャスカは物心がついた頃から、ずっとクク竜と一緒に暮らしていた。
だが母や姉のように鋭い爪やクチバシは持っていないし、空も飛べない、木のてっぺんまで一気に跳び上がることもできないため、自分のことを竜だと思い込んでいたのは最初だけだった。
それでも母はチャスカを実の娘のように愛し、狩りから帰ってきたら、決まって娘たちにお腹いっぱい食べさせてからその残りを食べるようにしていた。
しかし、チャスカは餌を待つことしか出来ない雛鳥のままでいることに満足しなかった。
山の中を素早く駆け回り、川を渡れるようになると、彼女は巣を出て母と姉の狩りを見に行くようになったのだ。
家族たちの戦う姿を脳裏に刻み、それを自分のものにした。翼を広げて空を翔けることはできないが、木々の間を跳ぶことならできる。鋭い爪とクチバシを持たないなら、石を使えば良い。
自身の腕を試したい衝動に駆られた彼女は、森の中を歩き回った。そして最初の強敵——餌を探す一匹のイノシシに出会った。
彼女はまず、クク竜の動きを真似てイノシシに飛びついた。しかし、イノシシの突進により尻もちをつかされてしまう。
地面を転がって起き上がり、そのまま石を拾い何度か投げるも、いずれも素早い身のこなしでかわされてしまった。
初めての戦いは激しい攻防を繰り返すこととなった。結果、チャスカは身体のあちこちにすり傷をつくり、ボロボロの服で、手ぶらで帰ることになった。
母は薬草を咥えて怪我の手当てをしてくれたが、姉はチャスカが今後狩りに行くのに強く反対した。
チャスカは巣でゆっくり傷を癒すとだけ約束し、治るとまたすぐ山に入って行った。
森と川を何度も行き来し、鋭利な石片、硬い木の枝、粘液、死んだ動物の皮、使えそうなものを片っ端から集めるチャスカ…
母と姉はそれら「ゴミ」の使い道を理解できず、チャスカに新たな趣味ができたのだと安堵していた。
そんな二匹の思いをよそに、チャスカはその「ゴミ」で新たな武器を作った——木の枝と革で作られたスリングショットだ。これがあれば石の射程と速度は上がる。
……
イノシシがいつも通りリスを追い詰めた時、イノシシもまた知らないうちに他者の狩場に足を踏み入れていた。
イノシシの足に粘液がくっつく。その場から動けなくなった瞬間、硬いものが次々と頭部に撃ちこまれ、イノシシは悲鳴を上げながら気絶した。
チャスカは、獲物が動かなくなったのを確認してからようやく茂みの中から姿を現した。そして意気揚々と戦利品を引きずって、家まで帰ったのであった。
母と姉は、この出来事からチャスカがきっと凄腕の狩人になるだろうと考えたが、またしても彼女たちの予想を超える展開を迎える。
たゆまぬ努力の末、チャスカはさらに多くの戦闘技術を身に付けた。まるで、「争う」ために技を身につけろと導く声があったかのようだ。
だが、その声に従えば従うほど、彼女は物陰に潜むことを好まなくなっていった。チャスカの攻撃性は増していき、山の鳥や獣たちと戦いたいという欲望を抑えきれなくなった。
ブラウンディアからフライングモモンガ、ハルバード・サイチョウへと意欲的に挑戦していった。その姿は、身を潜めて致命的な一撃を繰り出す狩人ではなく、真正面から戦いを挑み、死ぬまで武器を振り続ける闘士に似ていた。
しかし戦いの快感に溺れていくにつれ、得られる獲物は減っていった。鳥や獣だって頭は回る——相手が強者であることを悟れば、すぐさま逃げてしまうのだ。
この世には、すべての欲望を満たす選択肢など存在しない。戦いの快感と満腹感、どちらか一つしか選べないのだ。
幼いチャスカにとって、これはあまりに難しい選択だった。
キャラクターストーリー2
他の人間の赤ん坊と違って、チャスカが初めて覚えた言葉は「お母さん」でも「お父さん」でもなかった。
人間の養父であるクスコがチャスカに初めて会った日——生肉を噛みながら凶悪な目つきを見せるチャスカと、この子を自分に預けようとする族親のアルパを見て、クスコはあごが外れるほど驚いた。
「アルパ、孤児を引き取るとは言ったが…クク竜を引き取るとまでは言ってないぞ!」
アビスの侵攻が激しいナタにおいて、「戦争孤児」を引き取ることは珍しくない。しかし、チャスカのように捨てられてから竜に育てられた孤児は…もはや伝説にしか登場しない存在だ。
その上、この「クク竜の破壊力」はクスコの想像をさらに超えていた。ナタでは、クク竜は自分のペースを崩さないことで有名だが、チャスカは最も誇り高い野生の竜よりも手懐けにくい子であったのだ。
「あの野郎!また肉を奪いに倉庫に来たぞ!」
「こら!屋根の上に巣を作るんじゃない」
「ったく…またケンカかよ!」
そして何より厄介なのは、クク竜なら少なくとも餌や縄張りの争奪といった目的があるのに対して、幼いチャスカはただケンカを売りたいだけであった点だ。生肉より美味しい食べ物も、藁葺きの巣より寝心地の良いベッドも用意されているにもかかわらず、チャスカは昼夜問わず争いを起こしていた。
クスコは眉をひそめて考えた。そして、この一連の出来事は単に野性的なことが原因でもなければ、生活環境が変わったことによる反動でもないと気づいた。しかし、一体なぜだろうか?
人は財のために死に、鳥は餌のために死ぬ。利益のためでなく、交渉もできないとなれば…それはただ破壊を目的とする「闘争者」であり、「アビス」となんら変わりない。
…時間を作ってチャスカとちゃんと話し合う必要があるようだ。
チャスカがまたもトラブルを起こした日のこと、飛行隊のエリート二人がやっとのことで抑えたと聞いて、クスコはすぐさま現場に駆け付けた。いつも通り謝罪した後、シワの寄った眉間を揉みながら心の内を吐露した——
「…一体なにが望みなんだ?ちゃんと教えてくれないと、いつまで経ってもお互いに理解できないままだぞ。」
「この野郎に聞いてどうする?『人間の言葉』を喋れないって分かってるだろ。はぁ…族親もお前も、一体なに考えてやがんだか…」
幼いチャスカは自分を取り押さえている飛行隊の隊員を憎々しげに睨みつけ、喉を鳴らしてから、やがて掠れた声で「人間の言葉」を喋った。
「…グウウッ…『野郎』!!」
…「はぁ…罵りを返すのもコミュニケーションのひとつだ。何もないよりはマシだな。」とクスコは苦笑いするのであった。
キャラクターストーリー3
ロウソクの灯りがチャスカの寝顔を照らし、影が揺らぐ。その横でクスコと部族のシャーマンが顔を合わせていた。
「アビスの侵蝕はこの子の魂にまで染み込んでいて、争いの爪痕が刻まれている。それだけではない…年を追うごとに症状は悪化するはずだ…これほどに不吉なものは他のシャーマンも見たことないだろう。」
シャーマンは首を横に振りながら嘆き、それから言葉を選んでいるのか、しばらく考えてからこう続けた。
「…もしかすると、今のうちにこの子を山に帰してしまったほうが、皆にとっては良いことかもしれん。」
シャーマンが口にしなかった意味をクスコは汲み取った——まだ幼いというのに、既に手に負えないほどの暴れようだ…このまま大きくなれば怪我だけでは済まなくなる。
「アビス」は古来よりナタの大敵であり、チャスカを部族に残せばいずれ災いの種となるだろう。
だが「アビス」を抑えずに山へ戻せば、自由を与える反面、この子の死を見て見ぬふりすることになる。
チャスカの争いへの衝動は生まれ持っての渇望だ。人々が食べ物を求めるのと同じようなことである。人間が争うのは目的があるからであり、その目的が成されれば自ずと収まる。
しかし、チャスカの争いに対する渇望は底なし沼のようで、いくら「勝利」を重ねても永遠に満たされない。
その衝動を抑えない限り、彼女の最期は目に見えている。周りのすべてを破壊し尽くすか、熾烈な戦いの中で死ぬかのどちらかだろう。
「『今』のうちに…まだ割り切れるうちに決断したほうがいい。」
シャーマンの言葉はロウソクの光と共に、暗闇の中で揺らいでいた。
クスコは隣にいる幼いチャスカに目をやる。ぐっすりと眠る彼女は穏やかで、小さな寝息を立てるその様子は、普通の人間の女の子と何も変わらない。
クスコはチャスカの髪を撫でながら呟いた。「もう遅いさ…割り切れやしない。」
…
その時、誰も気づいていなかったが、トイレに起きたクイクが光の届かないドアの後ろに隠れていた。
まだ小さいクイクには、二人の会話の意味をよく理解できなかった。しかし、その重々しい空気と沈鬱な表情を浮かべる父の顔は、彼女の心の底に深く刻まれることとなった。
キャラクターストーリー4
それ以来、クイクの両親は隠居する族親に会いに行ったり、伝説にある薬草を採りに行ったりとよく遠出するようになった。
チャスカの危険な行動を未然に防ぐため、二人はなるべく同時に出かけないようにしていたが、急用が生じた時は仕方なく、幼いクイクと精神年齢のさらに幼い「お姉ちゃん」を家に残した。
幸い、「野郎」という言葉を覚えてからチャスカはだいぶ落ち着きを見せるようになっていた。小さなトラブルに遭遇してもすぐ飛び掛かろうとせず、まずは「野郎」と罵るようになったのだ。
「パパとママがいないと尻拭いしてくれる人がいないって気づいたのかな?」とクイクは思わず考えた。
「ううん。こんな性格なわけだし、きっとパパとママの苦労を…二人がどれだけ良くしてくれてるかなんて分かってないはず。」
チャスカがこの家に来る前、クイクは「お姉ちゃん」と暮らす生活を想像したことがある。退屈な時に一緒に遊んでくれるお姉ちゃん、悲しい時に慰めてくれるお姉ちゃん、病気になった時に看病してくれるお姉ちゃん…
だがチャスカが来てからというもの、パパとママは忙しくなり、一緒に遊んでいた友達は自分を遠ざけるようになった。
それもこれも全部お姉ちゃんのせいだ。
——そんな考えが一瞬頭をよぎったが、クイクは慌てて首を横に振った。
ううん、こんなこと考えちゃダメ。お姉ちゃんは本当に可哀そうな人だって族親と部族のみんなが…パパとママが言ってたんだから。
でも、もしお姉ちゃんがいなかったら…
「おい、クスコいるか?チャスカがまたやらかしたぞ!」
いきなり耳に飛び込んできた声に、クイクの考えは遮られた。
父の代わりに急いでその場に駆け付けると、険しい顔をしたチャスカと号泣する子供たちがいた——中には、クイクの親友だった子もいる。
「この…野…」チャスカは泣いている子供たちを指さす。
「またケンカしたの!」と口にした瞬間、先ほど中断された考えがふつふつと蘇ってきた。「お姉ちゃんはいつもそう…そのせいでみんなわたしを避けるようになって、パパとママも一緒にいてくれなくなったんだから!」
「野…郎…」チャスカは子供たちを指さす手を思わず下ろし、「野郎」と呟く声も段々と細くなっていった。
「お姉ちゃんが、一番の大バカ野郎だよ!!」
クイクは思わず、その言葉を口にしてしまった。
チャスカは目を大きく見開き、何かを言おうと唇を震わせたが、結局何も言わずに背を向けて集落の外へと走っていった。
…大丈夫。家出するのなんて初めてじゃないし、あとで探せば平気よ。
…だというのに、クイクの心はどこか不安に満ちていた。
「一体何があったんだ?最近はだいぶ落ち着いたって話だったろ?君たち、何かしたのか?」と大人が子供たちに聞いた。
殴られた子は互いに顔を見合わせて、どう答えればいいのか分からないといった様子だ。しばらくして、やっと震えた声で手を挙げた子供がいた。
「さ…最初はただの口喧嘩だったんだけど、他の子がこんなことを言ったんだ…」
「クスコおじさんたちもバカだよね…こんな野郎を部族に置いとくなんてって…た、ただの冗談だったんだよ!それに、大人が言ってたことを真似しただけだし!」
「あと…病気が移ったらまずいから…もうクイクと遊ぶのはやめようって…」
それを聞いて、クイクはすぐ理解した。だがクイクは、チャスカが走り去った先を見て、その場に立ち尽くすことしかできなかった。
山から吹く風の音は、言い知れぬ悲鳴を代わりに上げているかのようであった。
キャラクターストーリー5
一体、何がどうなってるんだ?あそこは自分の巣じゃないのに。
新しい巣に住むようになったのは、「族親」とやらに強引に棲み処を変えられたからだ。
人間たちから食べ物を与えられ、服を着せ替えられ、夜の寒さも一緒に凌げはしたが、どれも自分が望んだわけじゃない。
自分はいつだって元の巣に帰れるんだ。ああ、今すぐ巣に帰ろう!
「母さん」にまた追い出されても、「姉さん」ならきっと味方になってくれる。
「病気」でいくら身体が痛んでも、人間に治してもらうのなんてやめだ。
…チャスカの頭の中は乱れに乱れていた。
一体どういうことなのか…慣れた動きで木々の間を跳び、よく知る山風と葉の香りに包まれているのに、集落にいた頃のあの揺れるロウソクの炎を忘れられずにいる。
そもそも火を起こして暖をとる必要も、夜闇を照らす必要もない。だって「母さん」と「姉さん」もそうやって過ごしてきたのだから。
あれは弱い人間が寒い夜を恐れるがゆえに起こした火であり、強くて誇り高い竜には必要がない。
…でも、あのロウソクの火は確かに暖かかった。
そんな弱い考えが静かに頭の中に入ると、あの声がまた脳裏に響き始めた。裂けるような痛みが頭を襲う。身体は動かなくなり、そのせいで木から落ちてしまった。
——「やつ」がまた来たのだ。
チャスカは歯を食いしばりながら木を支えに立ち上がり、震える手が幹に血の跡を残した。
「争え!食いちぎれ!破壊しろ!そうすればすべての不快は消え去る。」
「人間の生活がもたらした弱さを忘れ、人間の世界のルールをすべて捨てろ!この世のありとあらゆる存在は生まれながらにして獣なのだ!」
幼い頃から、チャスカにはこの声が聞こえていた。最初はただ獲物を狩って噛みつくよう言ってくるだけだったが、時が経つにつれて頻度は増していき、聞こえるたびに眩暈を起こすようになった。その声の導き通りに暴れることが、それを鎮める唯一の方法だ。
「母さん」が私を人間のところに送ったのも…これを治してほしかったからだろう。
でも、やはりダメだった。人間の世界は竜の棲み処なんかよりもずっとうるさいし、人間たちは自分の言い分を主張し合って争い、数えきれないほどの対立を今も生んでいる。そこにいたせいだろう——「やつ」の声はより魅力的に、はっきりと聞こえるようになった。
——姉さん、私だって母さんを悲しませたくないんだ。でも…
チャスカは密かに、何度も巣に戻って姉さんに相談しようとしていた。しかし、人間の喉ではクク竜の声が出せない。
——暴力に訴えるのをやめてほしいのは分かってる。でも…
チャスカは何度もクスコ夫妻と交流を試みた。しかし、クク竜の子供では人間の言葉を話せない。
——やつらは殴られて当然だ!私はともかく、お前たちの悪口を言っていたんだぞ!
チャスカはクイクに弁明しようとしたが、口から出るのは「野郎」という言葉だけだった。
「気にするな。その声なら我が理解する。だから我の言葉だけを聞けばよい!」
「説明する必要も理解する必要もない。ただ気に食わないものを壊せばいい!」
変わらず「やつ」は心の中で叫び続けた。
——黙れッ!一番気に食わないのはお前だ!お前以上のクズはいない!!
チャスカは心の中でその声に応え、声の主を殴るかのようにひたすら木に拳を打ち付けた。
だが、そんなことをしても木片が舞うだけ。「やつ」の笑声はますます大きくなっていった。
……
枝葉の隙間から月の光が差し込み、チャスカの真っ白な顔を照らす。
彼女は地面に倒れ、拳の皮はめくれて骨が見えていた。
体中に痛みが走り、瞼は重くて開けていられない。心の中の声まで疲弊したのか聞こえなくなっていた。
いや…「やつ」は死にかけているんだ。だって「やつ」は私なんだから。
ここは人間の集落に近いし、頭上は木の葉に覆われてる…母さんも姉さんも私を見つけられないだろう。
クスコ夫妻も出かけてる…家出した自分を探す人はいないはずだ。
誰にも気づかれないところで、チャスカは死を迎えようとしていた。
別に構わない。この世界から一人の大バカ野郎と、その心の中にいるもっとバカな野郎がいなくなるだけだ。チャスカはそう自分に言い聞かせた。
…ただ、やはりこの月の光は…少しばかり寒い。
……
朦朧とする意識の中、顔に温もりを感じた。それは「母さん」の優しい翼のようで、人間が灯したロウソクの火のような温もり。チャスカはゆっくりと目を開けた。
目の前には簡素な焚き火があり、しゃがんだ姿で、気を付けながら薪をくべている女の子がいた——クイクだ。
「…あっ!」チャスカが目を覚ましたのを見て、クイクは慌てて手を後ろに隠した。炎の光が一瞬、その手にある火傷を照らした。
「…お姉ちゃん、手は大丈夫?」クイクがチャスカの手を指さしながら、火傷から意識を逸らす。
それでようやく、チャスカは自分の手が包帯でグルグル巻きにされていることに気づいた。その手当ては不器用ながらも、血はちゃんと止まっていた。
「…さすがに運べないから、ここで手当てするしかなくって…でも火をつけたから、集落の大人たちがすぐ見つけてくれるはずよ。」
チャスカは返事をせず、代わりに目で問いかけた。
「…お姉ちゃんに何かあったら、パパとママが悲しむから。」
「……」
「それに…わたしのためにケンカしてくれたんでしょ?…ありがとう、何も知らずに怒鳴ってごめん。」
「……」
「とにかく…家に帰ろう。」
「…家…」チャスカはそこでやっと口を開いた。新しく学んだ言葉をつぶやきながら、チャスカは頷いた。「…『家』に、帰ろう。」
「ピースメーカー」
飛行隊所属の族親・アルパが初めてチャスカを説教したのは、チャスカに殴られた人があまりにも増え、苦情の手紙が彼女の郵便受けをいっぱいにした頃だった。
しかし、アルパがどんなに人間社会のルールを説明しても、幼いチャスカはケンカのどこが悪いのか理解できなかった。
竜も獣も、力がすべてだ。自分は勝ったのに、なぜ問い詰められるのか?
ジェスチャーを交えながら苦労して説明するアルパをじっと見つめ、チャスカはこう考えた——この人も倒してしまえば、説教を聞かなくて済むんじゃないか?
アルパから二回目の説教を受けた時、チャスカの目つきは変わっていた。
「強くなる方法…教えて。」チャスカはぎこちない人間の言葉で、彼女に教えを求めた。「アビスに、勝ちたいから。」
「…分かった。じゃあ人間が誇る、一番強い武器の使い方を教えてあげる。」
そう言ってアルパが持ってきたのはウォーベンだった。その冒頭には『ピースメーカー:人と交流する芸術』とある。
「人間の言葉こそが、一番強い武器よ。」
口を動かすことと強さに何の関係があるんだ?当時のチャスカには理解ができなかった。
チャスカはむしろ、言葉よりも武器の使い方を学びたかった——弓、銃、燃素の扱い方、空中射撃のコツなどを。
強ければ、無駄な話をする必要などないとチャスカは思っていたのだ。
だが、今の彼女では心の中に潜む声を引きずり出せない。「やつ」を懲らしめて、永遠に黙らせることも叶わないだろう。
だからチャスカは辛抱強く、アルパのもとで単語を一つまた一つと学んだ。そして、一生触れることがないだろうと思っていたウォーベンを一つずつ読んでいった。
ウォーベンの教えの通り、他人とコミュニケーションを取ったり、戦闘で連携を取りながら背中を任せたりしたところ、狩りの効率が確かに上がった。
ウォーベンの教えの通り、クイクの誕生日にお祝いメッセージを書いて送ると、クイクと両親の顔から喜びを見て取れた。
ウォーベンの教えの通り、人々の期待を背負って帰火聖夜の巡礼に参加したら、花翼の集のみんなの目に尊敬の念が込められるようになった。
……
「ほら、注文通り作ったよ。最大口径で動力も一番のやつをね…あんたの腕を知ってなきゃ断ってたとこだよ。他の人にこんな無茶な注文されたら、きっと材料でそいつを夢の中から叩き起こしてただろーね。」
「礼を言う、シロネン。これで私の『調停』も『説得力』がより増すはずだ。」チャスカは、目を見張るほど巨大な「スピリットリボルバー・ライトワンド」を受け取り、手綱でその重さを感じた。
「はいはい、こんなモンで撃たれて平気な人なんていないだろうね。それ、あたしが花翼の集のために作ったものの中で、一番強い武器かも。」
「…いや、『弾丸が最も説得力を持つのは、それがまだ撃たれていない時だ。』」
チャスカは弾倉を撫でながら、とあるウォーベンに記されている比喩を思い出した。
「一番強い武器か…これからは私たちが『ピースメーカー』だ。」
神の目
いつしかチャスカは、暴れん坊の娘から様々な争いを終結させる「調停者」になっていた。
人と人、部族と部族、人と竜、竜と竜…チャスカが間に入れば、どんな争いも見事に収まる。
だが、人間の理性では理解ができず、最も優れた交渉術を以ってしても和解のできない存在がいた——それが「アビス」である。
心の中に潜む「やつ」との接し方をチャスカが学んでから、その声は次第に鳴りを潜めるようになった。いずれ完全に消えるのではないかと、チャスカも錯覚するほどにだ。
しかし、ある夜巡者の戦争でアビスの力の影響を受けたことで、繭を破る蝶のように、心の中の「やつ」は幻像となって姿を現した。その姿はチャスカにそっくりだった。
「やっと顔を合わせることができたな…我らはずっと争ってきたが、お互いに勝つことはなかった。もう終わりにしよう。…さあ前に出て、我を抱きしめるのだ…何者にも負けない力を与えてやる。」
この長く続く戦争の中、チャスカは魔物を屠るほどにアビスの力の影響を受け、その心に潜む争いへの渇望をどんどん膨らませていった。
そして気づけば、足元には薬莢と魔物の残骸が積み重なり、次の標的を血眼で探していた…
だからだろうか、この熾烈な戦場で手を差し伸べてくれた幻像は、まるで「ピースメーカー」のようにも見えた。
チャスカは本能から「やつ」に銃を向けた——やっと、こいつとおさらばできるチャンスが巡ってきたのだ。
「我を殺す気か?だが我のほかにお前を理解し、共にいれるやつなどいないだろう?」
幻像の数がさらに増え、一斉に襲いかかってきた。次第に、チャスカの心の底に埋もれていた感情が露わになっていく。
人々に異類と見なされ、捨てられた過去。
竜でもなければ、周りの「人間」とも違う…「家」を持つようになっても孤独な道を歩んできた記憶。
誰にも理解されず、消すこともできない心の中で燃える炎。
目の前の幻像は、まるで砂漠でやっと見つけたオアシスのようだ。
この終わりのない戦いにも、ようやく終止符を打てるのかもしれない。
彼女は一歩ずつ前へと進み、アビスの力に足を踏み入れた。全身が震え、眩暈が起こる。その感覚には馴染みがあった——まるで子供が母親に抱きしめられているかのような感覚だ。
一度は捨てられた自分だ…ここが本当の居場所だったのかもしれない。
……
幻像に触れる直前、温かな声に呼ばれた。
「お姉ちゃん、次に家出する時はせめて書き置きくらい残してよね!」
「自分に合う生き方を選ぶといい。だが、ここはいつだって君の家だ。」
「(…人間のところに残ることを選んだ以上、もう戻ってこなくていい。)」
「(コヤはああ言ってるけど、本当はチャスカのことが恋しいのよ…もちろん私も。)」
チャスカは頭を振って、足を止めた。
かつては心の声に盲従し、争いを渇望してより強い力を望んだ。
一人で歩くことに慣れている自分だが、今は絆の意味を知るようになった。そして、それは「人間」としての「絆」だ。
チャスカは再び銃を構えて幻像に狙いを定め——そして、弾丸をすべて放った。
幻像はガラスのように砕け散り、その欠片からは真っ赤な血が流れた。
「ふん、偽善者め…争いを止めるなどとほざきながら、我に銃を向けるとは…お前には失望した。」
幻像は煙のように消え、空虚な音だけを耳元に残した。
「『お前』のことをよく分かってるからこそ、確信したんだ。これが私たちの争いを『調停』する唯一の方法だとな。」
チャスカは空になった弾倉を取り出し、再装填しようとした。その時、弾の一つが地面に落ちて澄んだ音を響かせた。
下を見ると、そこには光り輝く神の目があった。
チャスカはそれを拾い上げ、親指で宙に弾いてからパシッと掴んだ。
「かかってくるといい。どれだけ争いが待っていようと、すべて『調停』してみせる…『お前』も含めてな。」