キャラクター詳細
ナタでは、花翼の集の者は空の上で暮らす、と言われる。
懸木の民は断崖絶壁を飛び越えていくし、謎煙の主の人々は山頂で星空を眺めるが、雲の間を駆け抜け、虹に触れられる空中の騎士は花翼の集の者たちだけなのだ。
上を向くのは気持ちがいい。遮るものがなく、ただ空だけが広がっている。広い空は人の「飛びたい」という欲求や、悩みから解き放たれたい願望を最大限に満たしてくれる。
しかし、戦火はいつも助けを呼ぶ声とともに足元に広がる。クク竜でさえ、怪我をすれば地に落ちるのだ。
イファは、下の世界の騎士である。責務と習慣は、彼に窮地を見極める目を与えた。
「人も動物も、いつかは地上に戻らないといけないからな。」イファはただ微笑んだ。
キャラクターストーリー1
「人間が竜の医者なら…竜は人間の医者だな。」オロルンは言った。
イファは一瞬言い淀むも、すぐに言葉を返す。「…名言らしく聞こえるからって、意味が成り立ってるとは限らないんじゃないか?」
「そっか…」
残念そうにつぶやくオロルン。だが、彼が本当に愚鈍なわけではない。時々、わざと変なことを言い出すことがあるのだ。もしかしたら、イファの反応を見てみたいだけなのかもしれない…だが、そうは分かっていても、イファは今の言葉を聞いて自分の人生を振り返らずにはいられなかった——どんな道を歩んできた結果、今の自分がいるのだろう、と。
イファの周りでは、どうにもならないことばかり起こる。獣医の仕事というのは幼稚園の先生のようなものだ。言うことを聞かない子どもたちを、あの手この手でなだめるしかない。怪我をしたら当然痛みを感じる。だが、それは治療も同じだ。傷口を消毒する、薬を塗る、注射を打つ…どれも竜たちにとって「痛い」ことに変わりはない。もしイファ自身が子猫や子犬だったら、痛みを区別することなど出来ないだろう。
痛ければ悲鳴を上げ、もがき、抵抗する。これは生き物としての本能だ。もし痛覚を失えば、体からの警報に気付かず、危険に見舞われることになるだろう。
きっと人生も同じなのだ。だからこそ、別れや悲しみといった「痛み」が時の流れを…今日を生きていることを思い出させてくれる。人も、竜も、時間を経て少しずつ成長していくのだ。
医者という仕事をしていれば、そういった別れは避けられない。この職業を選んだからには、支払わなければならない代償なんだ——イファはそう自分に言い聞かせた。
だが、その代償と引き換えに得たものもある。たくさんの感謝、人や動物たちからの愛、そして強い絆で結ばれた「きょうだい」。
あのやるせなさや悲しみを、喜びと幸せで癒すことができるのなら…それだけで十分に報われたと言えるだろう。
キャラクターストーリー2
時々、イファはこう考える——人は自ら選んだ場所に行くのではなく、気づいたらその場所にいるのではないかと。
いつからかは思い出せないが、気付けば人を助ける存在になっていた。近所の子供たちは彼を「お兄ちゃん」と呼び、健康な竜も病気の竜も、鳴き声を上げながら彼のあとをついて回る。年上の人に敬意を込めて「先生」と呼ばれたこともあったが、それにはイファも恐縮してしまった。
だが、みんなのそういった反応が素直に嬉しく、自分の仕事に誇りを感じさせてくれるのは事実だ。しかし、信頼を裏切ってはいけないと、頑張りすぎてしまうこともある。仔竜たちのためにおもちゃを作ったり、ギターを弾いて聞かせたり…あるいは、往診の帰りに近所の人たちに果物を配ったり、子どもたちに勉強を教えたりと、忙しい日々を過ごしている。
時の流れというのは早いものだ。獣医になるか迷っていた日々も、苦労して竜の背に登っていたあの頃も…まるで昨日のことのように感じられる。慌ただしく生きていくうちに、気付けばみんなから頼られる立派な大人になっていた。
イファは今の生活に不満など感じていない。むしろ、感謝の気持ちで満ち溢れているくらいだ。ただ、部族のお年寄りが口にする昔話を聞くと、つい幼い頃の自分を思い出してしまう。
そういう思い出話を聞くのが好きな子がいた。火山ケーキの食べカスを口元につけたその子が、イファのかつての失敗談を聞いて、くすくすと笑い出す。「イファにーちゃんも、昔は子どもだったんだね!にーちゃんじゃなくて、『イファくん』だ!」
そんな風に呼ばれるのは久しぶりだったので、イファは一瞬あっけに取られてしまった。だが、すぐ平常心に戻って、食べカスをぬぐうハンカチを探しながら、優しい笑顔でこう言った。「おいおい、何がおかしいんだ?お前、今年で何歳なった?」
「六歳だよ!」
「そりゃちょうどいい。俺は今、五歳なんだ。これからはお前を『兄ちゃん』って呼ぶのはどうだ?」
キャラクターストーリー3
遠い親戚まで含めると、イファの家はかなりの大家族だ。彼の家は竜医を多く輩出してきたことで知られているが、よくよく数えてみると、獣医にならなかった者も少なくない。つまり、イファには「獣医にならない」という道もあったのだ。
医学を修めるのは容易なことではない。物心ついた頃、イファの家にあるのは医学書ばかりで、彼にとってはそれが絵本だった。しかし、楽しんで読んでいたかというと、そうではない。本に書かれた文字や図は、水のように彼の頭から流れ出してしまうのだ。そんな時、幼いイファは怒りながら思った——別に竜医にならなきゃいけないわけじゃない!
だが、本の内容が理解できずにもがいていた時期は、それほど長くはなかった。戦場を駆け回って患者を助けていたイファの両親は、アビスの影響を受けたせいでずっと体調が優れなかった。そのことを子供心に感じ取っていたイファは、不安を抱きつつも心の中で呟いた——別に…竜医にならなきゃいけないわけじゃない…
しかし、この早熟な少年が大人になるのを待たずして、彼の両親は帰らぬ人となった。その時、イファは十七歳…両親の葬儀を終えた彼の心は空っぽで、何を考えればいいのかさえ分からなくなっていた。
それでも、彼は竜医となることを選んだ。
一族の伝統を継ぐためだったのか、ただ流れに身を任せたのかは分からない。だが気付いた頃には「腕が良く、穏やかで、責任感が強い竜医」と呼ばれるようになっていた。彼自身はというと…竜医になると決めた日から、あまり深くは考えずに過ごしてきた。戦争の最中で多忙だったことが、かえって辛い時期を乗り越える助けとなったのかもしれない。
そして月日は流れ、戦争は過去のものとなった。ようやく人生について考える時間を持てたわけだが、今となってはもはや、深く考える必要などなくなっていた。
「きっと誰にでも『自分のやるべきこと』ってのがあるんだろうな。」そんなことを考えながら、イファは心の内で願う——みんなが幸せでありますように、と。
キャラクターストーリー4
もし同情心から、傷ついた仔竜を見かけるたびに、もれなく診療所に連れて帰っていたとしたら——おそらくイファはとうの昔に、広大な野原に引っ越す羽目になっていただろう。彼は自分の性格をよく理解している。一度引き取り始めたら、止まらなくなってしまうということも。だからこそ、彼はあるルールを自分の中に定めている——「絶対に必要でない限り、竜たちを長く泊めることはしない。人であろうと、他の生き物もであろうと、それは同様だ。」
動物の引き取りを相談されるたび、イファは頭を抱える。目を潤ませる動物と視線を合わないよう固く目を閉じ、心を鬼にして言うのだ。「悪いが、無理だ…ちゃんと新しい家を探してやるから、分かってくれ。うちじゃ面倒を見切れないんだ。」
彼はこれまでそうやって踏みとどまってきた。だからこそ、「例外」の存在——カクークと今でも一緒にいることは、できれば認めたくない事実なのである。
「こいつ、いつまで経っても大きくならないんだよなぁ…」イファは言い訳を並べ立てる。「こんなに小さくて、こんなに丸い!人の言葉は話せるようだが、自分でも何言ってるのか分かってないみたいだしな。今自然に帰したら、かえって危ないかもしれないし…もう少し様子見するか。」
「今さら見捨てられないだけだと、素直に認めたほうがいい。」オロルンに本音を言われてしまった。
我関せずといった雰囲気のオロルンだが、彼こそイファにカクークを引き取らせた張本人である。カクークにつつかれて、ボロボロになってしまった野菜の葉を指さしながら、イファに無言で訴えかけてきたのだ。
どう場を収めたものかと考えていると、傍にいたカクークが急かすかのようにまとわりついてきた。こうして、イファは渋々——本当の気持ちはさておき——カクークを引き取ることに同意した。それに追加で、オロルンの損失に対する埋め合わせとして、一ヶ月の間、野菜配達員をすることで折り合いをつけた。
しかしこの一件、実はイファが見落としていることが二つある。
まず一つ目。畑が荒らされた件には、どうにもおかしな点がある。カクークは決して馬鹿ではない。どうしてわざわざオロルンを怒らせるようなことをしたのだろうか?実のところ、カクークとオロルンは共謀していたのだ。二人でイファの外堀を埋め、カクークの「診療所の助手になる」という大きな夢を叶えるための第一歩——まずは診療所に居座る、という作戦を実行したというわけだ。
そして二つ目。イファはずっと、道端でカクークを助けたのが最初の出会いだと思っているが、実はそうではない。カクークだけが覚えている出来事——かつてカクークの母が重傷を負った時、イファが応急処置を施してくれたのだ。その処置がなければ、この特別に聡明な仔竜が生まれることはなかったかもしれない。カクークは卵から孵った瞬間、イファの背中を見ていたのだ。しかし残念ながら、イファはそのことをまったく覚えていないようだ。
言葉が通じないというのもあったが、何より、話す必要がないとカクークは思っていた。母親はその後、古傷が再発して命を落とした。まだ幼かったカクークにとって、野生の世界でひとり生き延びるのはやはり困難だった。あまり人間を見たことはないが、母を助けてくれたイファなら、間違いないと思った。いつか診療所の一員となって、今度は自分がイファの役に立てたら、それは竜の世界でも誇れる素敵なことだろう——そうカクークは考えていたのだ。
そして今、作戦は第二段階へと入った。それは…「とぼけて、馬鹿なフリをする」である。
何でもすぐに自分の責任だと思い込んでしまうイファのことだ。カクークの過去を知ったら、きっとまた妙な責任感や罪悪感を抱いてしまうかもしれない。
だからこそ、この話はしない方がいい。カクークはそう思った。純粋な気持ちで、素直な心で付き合ってこそ、本当の「きょうだい」と言えるのだから。
キャラクターストーリー5
運動は得意な方だし、竜たちともすぐに打ち解けられる。飛行試練だってすんなり通過できた。ナタを巡る旅に出ても、問題なくやっていけるはずだ——
イファはまだ責任になど縛られていないうちに、他の部族を訪れてみることにした。
「こだまの子」では、腕利きの職人シロネンに出会った。彼女はほとんど会話もしないうちから、医療器具の設計を始めてくれた。なんて親切な人だ——イファはそう思った。しかし、後になって分かったことだが、その頃のシロネンはマーヴィカに頼まれた仕事を何かと理由をつけて後回しにしており、その依頼と関係がないことなら何でも面白く思えたそうだ。人から聞いた話だと、シロネンは山を登るのが速すぎて、普段なかなか話しかけられないらしい。あの時出会えたのは、かなりラッキーだったな、とイファは思った。
「懸木の民」には、どこか「花翼の集」と通じる雰囲気があった。ここの人々は皆、清々しい表情で高地の暮らしを楽しんでいる。かぎ縄やクライミングはスリル満点ですごく楽しめたが、唯一心残りがあるとすれば、民たちが噂していた若い竜狩り人に出会えなかったことだ。しかしその後、アハウが診療所を訪れたことで、その願いも叶えることができた。彼らと過ごした時間はとても楽しいものだった——アハウはそう思ってないようだったが。
集落を離れる前、チャスカが「流泉の衆」へ行くなら、ムアラニというガイドを探すといいと教えてくれていた。そこでイファは、マリングッズショップの前を何度か行き来してみたが、サメの形をしたサーフボードにつまずいたこと以外、特に収穫は得られなかった。そこで思い切ってサーフィン大会に参加してみたところ、なんと表彰式でムアラニに出会うことができた。ムアラニは、初めてのサーフィンで三位に入賞したイファを大いに称賛し、イファもチャンピオン本人からの言葉に少しだけ誇らしい気持ちになった。
「豊穣の邦」は果物がとても美味しかった——腕相撲を持ちかける人がいなければ、もっと良かっただろう。自分の勝ち目は薄いと見たイファは、「治療に手を使うから」とそれらしい理由をつけて、誘いの大半をうまく断っていた。結局この地では、イアンサの三ヶ月トレーニングに申し込みだけして、一度も参加しないまま、軽く手を振って旅立った。
「謎煙の主」は「花翼の集」のすぐ近くにあり、土地全体がどこか神秘的な雰囲気に包まれている。イファは特にここでしたいことはなかったが、帰路の途中でついでに立ち寄ってみることにした。集落の中を歩いていると、なんとなく背後に気配を感じる。しかし振り返っても何もいない。イファはまるで、自分の尻尾を追いかけてぐるぐる回るイクトミ竜のように、数歩歩いては後ろを振り返り、ぶつぶつと独り言を言いながら歩を進めた。
そして、ちょうどこの地を去ろうとした時のこと…突然の「あっ!」という大声に彼は足を止めた。振り返ると、淡い髪色の少女が腰に手を当てて、怒った様子で指をさしていた。自分が何かしてしまったか考える間もなく、イファは別の誰かに手を引っ張られ、その場から走り出した。
あまりの急な出来事に落ち着く暇もなかったため、当時の状況はイファ本人もあまり覚えていない。ただ、どうやらおばあさんと孫の追走劇に巻き込まれたらしい。オロルンがおばあさんを怒らせた理由はというと…隠れ身の術の練習がしたいがために、姿を隠して誰かについて回ったり、その術で部族の年長者から逃げ隠れしていたからだそうだ。
「隠れ身の術?そもそも、そんなもん本当にあるのか?」——イファはそう口にしながらも、結局は放っておくことができず、「黒曜石の老婆」をなだめて事態を収束させた。
疲れ果てて家に帰ると、両親が旅の思い出について尋ねてきた。話したいことは山ほどあったが、その時はあまりに疲れていて「楽しかったよ。いい友達がたくさんできた。」としか答えられなかった。
みんなとは、きっとまた会える——そう思うイファだった。
記録
イファはほぼ毎日、少し時間を取って診療記録を整理し、丁寧に分類している。新旧に関係なくカルテを読み返し、これまで診てきた様々な症例を振り返る時間は、彼にとって安らぎのひと時なのだ。カルテの内容も、治療で得た経験も、彼にとっては貴重な資料であり、他の竜医たちと共有する価値は十分にある。
それと同時に、角をぴたりと揃えて紙の資料を並べていく作業は、イファにとって心を落ち着かせるのにちょうどよかった。
これらのカルテは、英雄譚でもなければ貴重な古書でもない。難しい専門用語で書かれた乱雑なメモだ。イファ以外に、興味を持つ人はおそらくいないだろう。
イファ本人は、夢中になって読みふけってしまうことがあるほどだ。診療中の細かな場面を思い出し、気付いたことを数行書き足すこともある。
そして最後に、それらを元の棚に戻し、必要であれば乾燥剤や防虫剤を補充しておく。
こうして彼の記録整理は、草木が枯れては芽吹くように、毎年季節が巡るように、今日も静かに繰り返されていくのだ。
神の目
午後になってもイファの診療所が開かなかったため、人々は不審に思い始めていた。
最初のうちは、きっと昨夜、他の部族まで治療をしに行き、そのまま泊まったのだろうと思われていた。しかし、病気の竜を連れた人が訪ねて来ると、イファが対応のため姿を現した——高熱で意識を朦朧とさせたイファが。
彼は相手がまだ話し出していないうちから「大丈夫、大丈夫…」と繰り返し、竜の診察に取り掛かっていた。
そこにさらなる追い打ちがかかる——薬を処方している最中、別の人が飛び込んできて、「灰燼の都方面でアビスの侵攻があり、負傷したクク竜の治療をしてくれる医師を探しています!」と告げた。
するとイファは、またしても「大丈夫、大丈夫…」とつぶやきながら、その騎士と共に前線へと向かっていった。
イファはそうこうしているうちに、慌ただしい一日を終えた。その夜、彼は近所の人からもらった薬を飲み、丸一日気絶するかのように眠った。目を覚ました時、体は汗でぐっしょりと濡れていた。喉の渇きを潤そうと、水を探して手を伸ばす。そして彼は、ベッド横のテーブルに置かれた物に気付く。そこにあったのは…「神の目」だった。
高熱の影響か、イファの記憶は少し曖昧だった。しかし、昨日の往診はやり慣れた仕事の一つであり、体調が悪い時に働くのも初めてではなかった。一体どの行いが理由で自分が神の目を授かったのか、皆目見当がつかなかった。
なぜイファが神の目を手にしたのか、人々の間で様々な憶測が飛び交った。族長は彼の献身的な働きに対する報酬だと考え、隣の家のおばあさんは、彼の自己犠牲精神に対するねぎらいだろうと言った。「自己犠牲の精神なんて、そんな大げさな…」イファは少し持ち上げすぎだと、慌てたように何度も手を振って否定した。
そんな中、どこか大人びた雰囲気の子どもが言った。「イファ兄ちゃん、風ってね、人と人を結びつける力があるんだって。これからは困った時、仲間に頼ってもいいんだって、きっと神さまが教えてくれてるんだよ。」とても理にかなった解釈であり、イファも特に反論しようとは思わなかった。彼はただ、一刻を争うような状況において他に選択肢などなく、自然とやるべきことをやっただけだと思っていた。
この手の話に正解なんてものはない——「高熱で苦しむ俺に風を送って、身体を冷ましてやろうと神様が考えたかもな。」そう思ったりもしたが、彼はすぐに首を横に振った。その後も、神の目について考えることはあまりなかった。
実際、イファが神の目を使う機会は普段あまりなかった。しかし、カクークと出会って少し事情が変わった。今はどこへ行くにもカクークと行動を共にしており、空を飛ぶ時となれば当然一緒だ。カクークはいつも「がんばれ、きょうだい!」と大声で励ましてくれる。
そんな時にこそ、神の目が大活躍するのだ。