キャラクター詳細
ある年の風花祭の終わり、モンドに角と翼を持つ少年が現れた。騎士団のジン団長は人々に、かつて龍だったこの少年は、不思議な錬金術によって今の姿を得て、人として生きていく術を懸命に学んでいるところなのだと告げた。
モンドでは、数え切れないほどの童話が生まれてきたが故に、「一匹の龍が人間の少年に姿を変えた」という出来事も、さほど大きな波紋を呼ぶことはなかった。むしろ、物議を醸すこととなったのは——その少年の、「ドゥリン」という名前のほうだった。
その名前が話題に出るたびに、人々は思わずドラゴンスパインの方を見やる。巨大な龍骨が深い眠りにつくその地では、過去の災厄が、今も真っ白な雪の下に埋もれているのだ。「ドゥリン」という名から想起されるものは、大多数のモンドの人々にとって、決して良い印象を持つものではない。
しかしとにかく、ジン団長と西風騎士団が保護責任を負うことで、ドゥリンはモンドの住民の一人として受け入れられることになったのであった。
その後、人々は毎日モンドを歩き回るドゥリンを見かけるようになった。やがて人々は、彼が自分たちよりも緊張しているということに気が付いた。住人たちにとても興味を持っている様子だということは明らかなのに、遠くから眺めるだけで、なかなか自分から近づこうとはしないのだ。その姿は、人々が想像していた「危険な存在」とは、似ても似つかぬものだった。
今や「ドゥリン」という名前を聞いても、モンドの多くの人は雪山を見やるのではなく、優しい少年の姿を思い浮かべるようになった。彼は、「花言葉」の店先でフローラにどの花を友人に贈るべきか照れくさそうに相談し…またある時は申し訳なさそうな顔をして「鹿狩り」の前で立ち止まり、どうすれば肉を焦がさないで調理できるかを尋ねる。そんな彼を見ているうちに、いつしか人々の災いの記憶が塗り替えられ、「ドゥリン」の名を恐れずに済むようになったのだ。
それはまるで、良くない物語が最初から書き直されているかのような——とても不思議な感覚にさせてくれる光景だ。
キャラクターストーリー1
「ドゥリン」の物語を、知っているだろうか。
冒険者協会は、現地視察とモンドに伝わる歴史的資料の研究を通じて、この質問に対して詳しい答えを提示できるようになっている。数百年前、カーンルイアの災いが起きた時、ドゥリンという悪龍が多くのアビスの魔物と共にモンドを襲撃した。悪龍は存在自体が災厄であり、息吹一つで大地を不毛の地へと変えてしまった。風神バルバトスの眷属トワリンは、風神の導きのもと、ドゥリンと雪山の上空で死闘を繰り広げ、最終的にドゥリンの喉を引き裂いた。しかし、トワリンもまた、それによって長らく悪龍の毒の血に侵されることとなった…
一言で言えば、それは悲惨な物語なのだ。
しかし、災厄が終わって間もない頃、モンド城の吟遊詩人たちの間で、次のような詩が唄われ始めた——
お母さん、お母さん。言った通りにここへ来て、僕の思う「美しさ」をみんなに見せてあげたよ。
ここのお花はいい匂い。風もすっごく優しいんだ。風に向かって駆けだすと、花々はもっと綺麗に咲く。
ちょうちょも周りでひらひらと、美しいねって褒めてくれるみたいだった。でもね、僕が手を伸ばすと、みんなぱっと逃げちゃうんだ。
ところがそこへ綺麗な龍が、僕に近づいてきてくれた。一緒に踊らない?って誘うみたいに!
僕、その誘いを受け入れて、一緒に回り始めたんだ。花びらが風に舞い上がって、僕らのダンスを飾ったよ。
お母さん、お母さん。僕、新しい友達ができたのかな?
…奇怪なことに、何者かの指示を受けて、騎士団はすぐにこの詩が載っていた詩集を突き止めると、詩集の名を抹消し、禁書に指定した。
当時の民衆は、なぜ騎士団がそのような行動に出たのかわからなかった。しかし、もしドゥリンの物語に強い興味を抱いて、調査を続けた者がいれば、とある錬金術師の残した実験記録からこんな情報を得られたかもしれない。ドゥリンの意識は天の外から来たものであり、錬金術によってあの悪龍の体と融合したと思われるのだ。アビスの力に侵された彼の認知は普通の生物とは大きく異なっており、そのために彼は最期まで災いの化身となる運命から逃れられず、目の前の残酷な光景を理解することさえできなかったのかもしれない…
つまり、件の詩は、ドゥリンの目線から見た「ドゥリンの物語」だったと考えられるのである。
これらすべてを偶然知った一人の魔女は、堪えきれず遺憾の意を示した——もし「ドゥリン」の魂がアビスの呪いから逃れられたなら、トワリンと本当に友達になれていたなら…この物語の結末は違うものになっていたのではないだろうか?
そんなやるせない思いを昇華するように、魔女は新たな物語を書き始めた。その主人公の名は——「ドゥリン」。
キャラクターストーリー2
モンドに来たばかりの頃、ドゥリンはいつも人混みを避けていた。彼はまるでキャンバスの外にはみ出た色彩のように、異様に目立ちながらも、意味のある風景を作り出すことができなかった。その凝固した色彩の中に閉じ込められたまま、新しい友達を作ることも、自分の物語を紡ぎ出すこともできずにいたのだ。
ジンの頼みを受けてドゥリンの先生になったばかりのリサは、そんなドゥリンの様子をしっかり見ており、同時に、彼が本来は人付き合いを避ける性格ではないことを鋭く察していた。新しい友達を作りたがっているのは明らかなのに、二の足を踏んでいるようなのだ。リサがそのことについて尋ねると、ドゥリンはようやく自分の悩みを打ち明けた。
「ボク、他の人とどう接したらいいのか分からないんだ…」
「友達を作るには、人との付き合い方を学ばないとね。でも、これは授業では教えてあげられないわ。」
そこで、リサはドゥリンにこんな宿題を出した——「部屋から出て、モンドの住民から人付き合いの方法を学びなさい」。師の導きによって、ドゥリンはやっと迷いをあらかた振り切ることができた。そして、かつて閉じこもっていた場所から出た時のように、ついに自分の部屋から一歩踏み出すことに成功したのだ。
ドゥリンが最初に向かったのは、アルベドのもとだった。彼はアルベドを、何でも知っている天才のように思っていたからだ。しかし「人付き合いの方法」について尋ねられたアルベドは、自分たちのいる人里離れた錬金術の工房と、人気のない雪原を見回して、しばらく考え込むと、もっと適切な相談相手を探すようドゥリンに提案したのだった。
次に思いついたのは、クレーだった。誰とでも友達になれる彼女であれば、きっと素晴らしい人付き合いの秘訣を知っているに違いない…そうしてクレーから帰ってきた答えは、「一緒にお魚をドカーンすればいい」というものだった。一緒にお魚をドカーンした経験さえあれば、苦楽を共にした友達になれるというのだ。ドゥリンはクレーと一緒にジンに反省室に閉じ込められてようやく、その理屈をなんとなく理解した。
ドゥリンはダリアとガイアにも相談しようと考えた。何しろ、この教会の助祭は話を聞くのが上手だし、騎兵隊長はたいそう世話焼きなのだ。ドゥリンから話を聞いた彼らはすぐに意気投合し、結託してドゥリンをエンジェルズシェアに連れ込んだ。カウンター席に座ったドゥリンはなんとなく居心地の悪さを感じながら、杯を掲げて歌い、笑いながら酒を飲む人々を眺めた。モンドではどうやら、これを「人付き合い」と呼ぶようだ。ところが、目の前のアルコールドリンクを一嗅ぎしてみると、それだけでクラっと来て倒れそうになってしまった。幸い、冷静な店主がすぐにジュースに取り換えてくれたが…この「人付き合い」の方法は、ドゥリンにはまだ早いようだった。
それでも、この経験はドゥリンにヒントを与えてくれた。ドゥリンは、騒がしい人混みも無ければ、彼を酔わせるお酒の匂いもない、別の酒場に行ってみることにした。その酒場では、みんなが「七聖召喚」というカードゲームで交流していた。しかし、対戦相手を待っている間にドゥリンは猫たちの「集中砲火」を浴びてしまい、ディオナの仲裁により、やっとの思いで抜け出したのだった…
あっという間に数日が過ぎ去った。ドゥリンは様々な方法を試してみたが、相変わらず良い「人付き合いの方法」は見いだせず、リサからの宿題を終わらせることができずにいた。
しかし、そんな結果を報告しても、リサはドゥリンを責めなかった。
「じゃあ、これは長期の宿題と思っていいわ。終わらせられたと思った日に、先生のところに持ってきてちょうだい。」
「本当?ありがとう、先生!」
リサは別にドゥリンを甘やかそうとしたわけではない。彼女はもう、今のドゥリンがキャンバスの外で孤立していたあの絵の具ではないとわかっていたのだ。雪山の工房には暖房設備が追加で置かれ、騎士団の反省室にはときどき椅子が増え、エンジェルズシェアにはジュース専用のカウンター席ができ、キャッツテール酒場の外には時たま、特別にカードゲーム用のテーブルが設けられるようになった。実際のところ、「人付き合い」に決まった形式などはない。誰もが独自の個性を持ち寄って互いにぶつかり合い、最終的に自分にとって最も居心地の良い居場所を見つけるものだ。ドゥリンは知らず知らずのうちに、キャンバスに溶け込んでいたのである。いまだに特殊な色合いを帯びてはいるものの、彼の存在は今や、確実に数多くの楽しい風景の一部となっている。そしてその風景の中にいる人々こそが、彼の今の——そしてこれからの友達だ。この風景の中で起きていることはすべて、彼の物語なのだから。
彼がそれに気づいた時、この課題は自ずと完了するだろう。
キャラクターストーリー3
テイワットにやってきたドゥリンが、最初に滞在したのはスメールだった。その頃のドゥリンはまだ人の姿ではなく、皆から「ちびドゥリン」と呼ばれていた。特殊な存在であったが故に、悪者や不届き者に目をつけられることもあったが、ガイドとなった「笠っち」はボディガードをも請け負った。彼のひと睨みで大抵の輩は退いたし、異獣を売買する悪徳商人が雇った傭兵団も彼の相手ではなかった。
それはドゥリンにとって、気楽で楽しい旅だった。テイワット大陸はシムランカほど平和でも美しくもなかったが、ドゥリンはこの新しい世界を気に入っていた。
彼がこの世界に来てから抱いた唯一の不安は、むしろ「笠っち」に関することだった。
おとぎ話から生まれた龍であるドゥリンの目には、誰もが一つの特別な「物語」を持っているものとして映る。「笠っち」とスメールシティで暮らしていた時、ドゥリンは『尻尾の手入れと大きなお耳~雨林とキノコ~』や『帽子の中の大きなお耳~教令院と七聖召喚と龍には難しいジョーク~』など、たくさんの物語に触れることができた。そして、時たま砂漠に行くときは、『砂漠と追いかけっことウルフドッグ』という物語にも出会えた。
ところが、一番長く一緒にいたはずの「笠っち」の物語は、何一つ見えなかったのだ。
ドゥリンは、この疑念を「笠っち」に打ち明けなかった。まだ、一緒に過ごした時間が十分でないと思ったのだ。だから、ドゥリンは彼のそばで、彼の物語を見つけることに専念した。しかし、ほどなくして、ドゥリンは彼のほうから、旅を終えることを提案された——
「そろそろいいだろう。他の人の世話になるか…あの童話の世界に戻ったらどうだい?」
「ダメだよ、まだ笠っちの物語を見れてないもん!」
ドゥリンは断固として拒否した。彼はいつも通りぶっきらぼうだったが、単に不機嫌で自分を追い払おうとしているわけではないことをわかっていた。本当の理由は、きっとドゥリンの知らない、彼自身の物語の中に隠されているはずなのだ。
これが他の誰かであれば、「笠っち」はきっと何も言わずに立ち去っていただろう。しかし、彼はドゥリンの目に宿る決意を感じ取っていた。そもそも、ドゥリンがテイワットを一緒に旅したいと言い出した時から、彼がドゥリンの願いを断れたことなど、一度もないのだから。そして今回も、歩み寄ったのは彼のほうだった。
「ドゥリン、この世界に君の物語を残してみないかい?」
「この世界に、ボクの物語を残す…?」
「とても重い決断になるとは思う。でもずっと僕の側にいるだけで、この世界のことを知れるとは思えない。だから、もっと遠くへ行って、この世界の美しい部分も、醜い部分も見たうえで、決めてほしいんだ。」
「うん…でも、キミの物語は…」
「もし君が本当に自分の物語を残すことに決めたなら、僕もその物語の中で何かしらの役割を演じることになるだろう。君はその役割だけを覚えていてくれればいい。それが君にとっての、僕の物語になる。」
ドゥリンは長い間考え込んだ。こんな風に話す彼を見るのは、初めてだった——語気に混ざった幾らかの励ましの気持ち、そして気づけないほどわずかに滲む、ほんの少しの懇願。
結局ドゥリンは、その提案を受け入れたのだった。
キャラクターストーリー4
みんなの祝福で呪いが解けるまでの間、ドゥリンはシムランカでの大半の時間を孤独で憂鬱な洞窟の中で過ごしていた。しかし、シムランカに来たばかりの頃は、ドゥリンも幸せだった。その頃、母親のアンヤ・「マリ」・アンデシュドッテルはまだこの世にいた。
当時、シムランカはまだ完成しておらず、母親は仕事の合間に、ドゥリンをシムランカのあちこちに連れて行った。
その際、母親はよく、二人の女性とともに景観について話し合っていた。彼女たちは「龍が暮らす世界にはどんなものがあるのか」について話し合い、熱い議論の中で渓谷を切り開き、レールを敷き、城を築いていった…
母親と女性たちの意見は、時に食い違うようだった。炎のように赤い女性は、爆弾のようにスリリングな要素を好んだが、ドゥリンの母親はその意見に対し、不安を示した。彼女は子供のようにシムランカの住人たちを大切にしていたため、彼らの故郷が廃墟になってしまう可能性のある危険な試みは避けようとしたのだ。しかし、そういった意見の食い違いも、すぐに解消された。炎のように赤い女性は、すぐに素晴らしいアイデアで危険な要素を考え直して母親の不安を解消し、世界をさらに楽しく飾り立てた。
その頃は、シムランカの物語もまだ完成していなかった。母親はよく筆を止めては、構想を練った。
母親が筆を止めるたび、水色の女性は素敵なティーカップとおいしいお菓子を持って、遊びにやってきた。母親と彼女の話の内容は、心地よい午後から静かな夜、空にある星々からシムランカの未来まで、遥か遠くへと飛んでいくようだった…
議論の最中、水色の彼女は、ドゥリンの体に新しく生えてきたウロコを、複雑な眼差しで見つめることがあった。その視線にドゥリンは不安を感じたが、彼女の持ってくるお菓子はとても美味しかったため、彼女が訪ねて来ること自体は、嫌ではなかった。
それ以外の時間、母親はずっと机に向かって創作に打ち込んでいた。ドゥリンは幾度も、そんな母親に静かに寄り添って、紙にペンを走らせる音を聞きながら眠りについた。そんな時間がずっと続くと思っていたが…ある日、母親は突然手にしていたペンを置いた——ついに、作品が完成したようだった。
「少し散歩に付き合ってくれる?」
母親は、ドゥリンを空中にある庭園へと連れて行き、地平線を眺めながら、本のページの端を撫でるような仕草で手を伸ばした。
「機会があったら、この世界を出て、外の世界を見てみたいと思う?」
「ボク、この世界から出られるの?」
「うん。アリスおばさんの魔法ならね…彼女はすごいから。」
「えっと…この世界を離れたら、ボクはどうなるの?」
「その後のことは、あたしにも分からない…それは、あたしの結末の後に起こることだから。『遠くへ行く』っていうのは不思議な言い方だよね…物語の終わりとも、始まりともとれる言葉だ。ドゥリン、一つお願いがあるんだ。将来もし機会があったら、シムランカを出て、遠くへ行ってみてくれる?」
「大変な困難に直面するかもしれないけど、心配することはない。アリスおばさんの魔法が助けてくれるし、お母さんも祝福を送り続けるから。」
ドゥリンは母親が大切な言葉を残そうとしているのを感じ取り、その気持ちに応えようと、真剣な面持ちで頷いた。
「これで、あたしが残すべき文字の中で一番大切な行も、書き上げられたって事でいいのかな…」
ドゥリンは母親が遠くの夕陽を眺めるのを見た。彼女の瞳の中の感情は、そこに映る夕焼けのように、熱く深い名残惜しさから、優しい温もりへと変わっていき…やがて、夜の闇へと溶けていった。
その後、シムランカの「運命」は本格的に動き出し、祝福の森にいる折り紙の動物たちと、オルビット城にいる積み木の小人たちは、三柱の女神が紡ぎ出した物語を展開していくことになる。
そして母親が息を引き取ったことを契機に、ドゥリンの幸せな日々は一度、終わりを迎えたのだった。
キャラクターストーリー5
ウェンティから授かった風に乗って、ドゥリンはトワリンに追いつき、一緒に風立ちの地の空へと飛んでいった。そして魔女が紡いできた物語は、ついに彼女が望んでいた章へと辿り着いた。
アリスは、魔女たちの集会に使われる大きなテーブルのそばに立ち、ドゥリンの遠ざかる姿を見つめていた。彼女はふいに、何年も前の魔女たちのお茶会に思いを巡らせた。当時は珍しく七人の魔女が全員揃っていたので、アリスは大いに喜んで、みんなでリレー方式で物語を描こうと思い立った。どんなテーマにするか決めかねて、作家のアンヤに相談すると、彼女はこう答えた。
「もし機会があれば、『消えない炎』の物語を残したい…あたしの思いつく中で、作家として最も崇高な目標だよ。」
「『消えない炎』?それって具体的にどういうこと?」
「その答えは、一人ずつ違うはず——お題にぴったりでしょう?かく言うあたしも、自分なりの答えを探してるところなんだ。」
アンヤは正面から答えることはしなかった。しかし、彼女が自分の作品でよく見せるような勿体ぶった態度は、かえってアリスの好奇心を掻き立てた。
「よし、そのお題にしましょ!これからみんなで集まるたびに、順番が回ってきた人が自分の担当する章を発表するの。うーん…最後の部分はアンヤね。この物語が終わるとき、きっとあなたも自分の答えを見つけられるはずよ。」
そうして、リレーは始まった。アリスは率先して物語の序章を担当し、小さな魔女が老魔女の試練を完遂するために、「消えない炎」を求めて旅立つ物語を書きおろした。
しかし、アリスにとって予想外の事が起きた——次に魔女たちが全員揃った時には、アンヤは棺の中で永遠の眠りについてしまっていたのだ…アリスは魔女集会が開催される間隔が、只人であるアンヤにとってどれだけ長いか、見誤っていた。彼女が次の物語に胸を躍らせていた間に、アンヤはどんどん年老いてしまっていたのである。物語が五巻目に達した頃、アンヤはこの世を去った。
アリスが始めたこの物語は、バーベロスが担当した第二巻とレインドットが担当した第三巻で完全に脱線したが、イヴァノヴナが担当した第四巻でなんとか軌道修正され、体裁を整えた。しかし、結局ニコが担当した第五巻では、一言で慌ただしく締めくくられることとなった。もうアンヤが用意していた答えを知ることは永遠にかなわない——そう思ったアリスは、ひどく残念がった。
転機をもたらしたのはオクタヴィアだった。アンヤとの別れは魔女会設立以来初のメンバー脱退となったため、普段は欠席が多い彼女も、書き上げた第六巻と共にこの集まりに参加した。第六巻は、物語の中の小さな魔女が、再び老魔女のもとへ戻る機会を手に入れる…という内容だった。
「『消えない炎』は、まだあるかもしれないよ。」
オクタヴィアの助言で、アリスはアンヤが残した最後の作品——二人で共に作り上げた「シムランカ」という世界に目を向けた。この世界では、ドゥリンという名の龍が、不安と迷いの中で来たる奇跡を待ち続けていた。アンヤは彼女の他の作品に謎を残したように、彼にも静かに燃え盛る炎のような可能性を残したのだ。物語の世界を照らすその炎は、アリスの好奇心を掻き立てた。その炎を見つめながら、アリスはかつてアンヤと交わした約束を思い出していた。
「彼女が担当するはずだった結末は、私が書かなくちゃいけないみたいね。」
そして時は流れ、アリスはあの龍を見守るようになった。そして、悪龍の名を背負ったあの子供が、皆からの祝福を受けて物語の世界から歩み出し、物語の外の世界で友と共に運命を乗り越えていく姿を——そして、ついに悪龍ドゥリンの物語を書き替え、トワリンと共に空へと飛び立つ姿を見届けた。
アリスはここまでの道のりに思いを巡らせ、いつの間にかアンヤの答えを得ていたことに気が付いた。
「アンヤ、担当した章の結末にも書いたけど、私はずっとあなたこそ私たちの中で一番すごい魔女だって思ってたのよ。」
「あなたはいつも自分は何も残せないって言ってた…でも、私は見届けた——あなたが残した、『消えない炎』を。」
龍の心
ドゥリンがいつも着ている服は、世にも不思議な出来事がきっかけで手に入れたものだ。直接的な証拠はないものの、ドゥリンはこの服は母親のアンヤが魔法を使って贈ってくれたのだと信じ続けている——なぜなら、この服に施された様々な装飾は、どれも母の作品に出てくるもので、見覚えがあるからだ。きっと、ドゥリンを心から可愛がっていたからこそ、おとぎ話に出てくる王子様のような見た目に仕上げようとしたのだろう。
しかしその意匠の中に、ドゥリンの知らない要素が一つだけある。襟元で存在感を放つ、ハート型の宝石だ。しかし、ドゥリンの生まれ変わった過程と、宝石に施されていたバツ型の装飾から、ドゥリンはこのハート型の宝石が自身と融合した悪龍の心臓で、クロスしたような形は今の自分の体がその心臓を封印する牢であることを象徴しているのだと察した。
しかし、ドゥリンが母親からペンを受け取って、自分で自分の物語を書き始めた時、バツ型の装飾は消えてしまった。そして、宝石に手を当てた時も、邪悪な存在ではなく、ドゥリン自身の心臓の鼓動を感じられるようになった。
その瞬間、ドゥリンはようやくこの宝石に込められた本当の意味を理解した——それは悪龍の心などではなく…まさに、ドゥリンの心そのものであったのだ。
この心は今、真の自由の中にある。
神の目
モンドでアルベドを訪ねた時、ドゥリンは初めて雪山で深い眠りにつく巨大な龍の骨を見た。その骨の主は、彼自身と同じ名を持っていた。
ドゥリンは、自分と同じ名の龍がこの地にもたらした災厄の内容と、その災厄が再び訪れようしている事実をアルベドから知らされた。
「みんなを救う方法はないのかな?」
「あるにはある。ただ…」
アルベドはドゥリンに、錬金術を使って彼と悪龍の心臓を融合させれば、その中にあるアビスの力を完全に封印できる可能性があると語った。
しかし、完全無欠というわけにはいかない——ドゥリンはこの計画に欠かせない存在として、とある代償を払わなければならないのだ。アルベドは、錬成終了後、ドゥリンが悪龍の代わりにこの世界に蘇ることになることになるが、この世界はシムランカのように可愛らしい世界ではないのだと言った。ドゥリンが封印しなければならない力は、すべてを積み木に変えてしまう呪いよりも、はるかに恐ろしいものだ。
アルベドはこれが一方的に進めてはいけない話だと分かっていたため、ドゥリンの選択を待った。
ドゥリンは遠くにある龍骨を見つめた。何か不思議な力に導かれて、ここまで来た気がしている。しかしその力は、例の選択を突きつけられて以来、逆に黙り込んでしまった。まるで、運命を紡ぐ女神が筆を置いて、この決断は自分自身でしなければならないのだと告げているようだった。
「もし、ボクがキミの世界に残りたいって言ったら?」
その瞬間、ドゥリンは過去の多くのことを思い出した。母親が遠くへ行けと言ったから、彼はテイワットの世界へやってきた。笠っちがもっと遠くへ行けと言ったから、彼はこの世界のありとあらゆるものを見てきた。その過程で多くのことを経験したが、それらは物語の出来事のように、いつも結末が用意されていたわけではなかった。世の中は常に移ろい、たびたび予想もしないことが起こる。想定以上の喜びもあれば、期待が裏切られることもあった。
しかし、まさにその不確かさこそが、物語から飛び出してきたドゥリンを深く魅了し、この世界への探求を駆り立てた。物語の筋書き通りに進む「登場人物」たちが持たない、未知なる彼方へと向かう時にのみ生まれる大切なもの…
——「願い」を、ドゥリンに与えてくれたのだ。
「ボク、ここに残りたい。この世界が大好きなんだ。お母さんに言われたことを叶えたいし、笠っちの言うように自分の物語を残したい。それに、アルベドと一緒にみんなを救いたい。悪龍を抑えて…『本当の人間』になりたい。」
そうして結局は、逆にドゥリンの方からアルベドに頼む形となった。
「ボクの願いを、叶えてほしいんだ。」
そうして壮大な試練は始まり、やがて錬成陣の光がモンドの空を照らした。
光や煙が収まった後、ドゥリンは自分の側にある錬成陣の中央で、光り輝く神の目を見つけた。
それは彼の願いが、叶った瞬間だった。