ナド・クライ
月の信仰が残る辺境。七国とは別枠
一次資料での用例
21この言葉が出てくる場面
24機械生命体の「自我」について、学者たちは次のような考えをめぐらせた——「ある機械が部品を毎日少しずつ取り替えられ、最終的にその機械を構成するすべての部品が当初と違うものになった時、それは『元の自分』と同じであると言えるのか?」 この問いはイネファからすると、悩むほどのことではないらしい。機体や部品をどれだけ取り替えようと、彼女の「コア」は決して変わらない。つまり、「コア」のある場所にこそ「イネファ」は存在するのである。 では、コアまで分解するとしたら、どうだろうか?どの部分が彼女の自我を表すのか?現在の技術では成し得ないが、イネファの製造者はコアを徹底的に分解して調べることを切望してきた。だが、うっかりイネファを壊してしまうようなことがあってはならないと、今ではもうそういった考えは捨てたようだ。 しかし、彼女の「自我」を定義するものがコアに含まれる思考と記憶だとして、そのデータが先ほどの問いに出てきた部品のように、自分の意思と無関係に消えたり現われたりしたら、「イネファ」という存在の定義はあいまいになっていくのではないだろうか? あるいは「外的な力」を借りることで、イネファは自我を保つことができるかもしれない。たとえば彼女がどんなに変わろうと、ずっとそばにいてくれる友人たち—— 「お前ほど『徹底的』に掃除をするメイドは他に知らない…いや、もう一人いたな!」豪胆な騎士はそう話した。 「あんたは…ナド・クライで一番の菓子職人だな。まっ、人じゃなくてロボットだけど!」と時々顔を出す賞金稼ぎは語る。 そして、彼女を作った天才機械技師はこう言った。「イネファはアイノの家族なんだから——絶対帰って来るんだよ!」 この支えがあるからこそ、イネファは何度も記憶を失い、途方に暮れることになろうと、はっきりこう答えることができる—— 「私はイネファ、万能型家庭用ロボット——貴方の友人です。」
「カチャカチャ・クルムカケ工房」で一体のロボットが製造された。その知らせは、瞬く間にナシャタウン中を駆け巡った。 そして、情報が広まると共に、妙な噂話まで飛び交い始めた。たとえば… 「彼女は強力な磁場を発生させ、人々の日常生活をかき乱す」、 「彼女の目と耳は壁越しであろうと情報を収集できる」、 「彼女は手のひらから岩石を溶かすほどの熱線を出すことができる」といった内容だ… …… これらの噂について「壁越しに透視や盗聴なんてできないし、一撃で丘を吹き飛ばすこともできない」とイネファは何度も否定したが、なかなか信じてもらえなかった。 人間という生き物は、知らないものに関してあれこれ憶測するばかりで、その真実を明らかにしようとするほどの勇気や意志を持つ者は、ごくわずかしかいないのだ。 アイノは特にこのことを気にかけておらず、「イネファにやるべきことをやらせるまで」といった感じだった。どうせ客がロボットだからといって、ナシャタウンの青果店が会計をおまけてくれるわけではないのだから。 イネファは半信半疑で言われたとおりに行動した。すると八百屋は驚き、たじろぎ、震えながらも、イネファの手にあるモラに「説得」され、勇気を振り絞って商品を量り、包んでくれた。 同様に、その日は鍛冶屋と雑貨屋でも次々と驚きの声が上がった。 一週間後、イネファが再びナシャタウンを訪れると、店員たちがちょうど彼女の噂話に花を咲かせていた。本人が来たので驚いていたが、先週に比べると控えめな反応だった。 三週目になると、彼らはもう驚きと好奇心を目の奥にしまい込む術を身につけていた。 そして四週目を迎えた頃、ナシャタウンの噂話にかすかな変化が現れた—— 「彼女の磁場は秤の測定値に影響を与えない」、 「彼女の目と耳では、商品の原価まで見抜くことはできない」、 「彼女が熱線を武器にして、値切り交渉することはない」といった具合だ… …… 「一体なぜでしょう…私はごく普通に交流をしていただけで、人間関係を良くしようと特別なことをしたわけではないのですが…」 この変化についても、アイノはこれといった反応は示さず、気にかけている様子はなかった。彼女はイネファがナシャタウンに溶け込めると、最初から分かっていたようだ。 結局のところ、ナド・クライのような玉石混交の場所では、何の悪意も持たないただのロボットのほうが、人間よりもよっぽど信頼できるということなのかもしれない。
古代のナタ人はバニラという名の作物を育て、料理や薬などに用いていた。 バニラは本来、森の奥深く仄暗い場所に育つ。太い枝も立派な根もないので、他の樹木に寄りかかるようにして、木々の隙間からこぼれる日の光を頼りにひっそりと成長するのだ。 なんてか弱い植物だろう、まるで人間のようだと幼い娘は嘆いた。 一方、少し年上の兄は「強者に依存することも一種の生存戦略」だと思った。 だが単なるツル草でも、蜘蛛の巣のように複雑に絡み合い、鎖のように固く結びつけば、大木を締め付けて命を絶つことはできる。 母は鋭いナイフで熟したさやを切り開くと、かぐわしい香りと共に小さな実が露わになった。 自身の気高さを忘れずにいれば、たとえジメジメとした腐葉土で育とうと、たくましいツルは空高く伸びていく。 …… 十三の至高なる領主は秘源技術の最高峰であり、炎の龍王の末裔でもある。誇り高き彼らが「命ノ星座」などという束縛を受け入れるはずがない。 「曙光の鏡」と対を成すイネファは、そもそも星屑の加護を受けるべき存在ではなかった。 ナド・クライを彷徨った二千年の間、彼女は絡み合う無数の道を名もなき旅人のように進み、無数の星が輝き尽き果てる瞬間を見届けてきた。時には「運命」という名の糸に導かれることも…時には「人間」という星の光に照らされることもあったが…彼女はそれらのことを次々と忘れていった。 しかし、コアの奥深くにある「月の輪」が灯された瞬間、記憶が一気に押し寄せ、とうとう旅の最初に見た星の光を思い出した—— イネファが旅立つ時、リアンカは記念と称して、手折ったバニラを彼女の部品の隙間に飾った。 その時のイネファには、なぜそんなことをするのか分からなかった。 あの花はとうの昔に広大な海の果てで枯れてしまっている。そしてバニラ自体も、ナタの地から姿を消しつつあった。 あれから二千年経った現在、天空の彼方、星々の間には、天高く伸びた「バニラ」が静かに花を咲かせている。
フリンズさんについては…あまり情報がありません。わずかな情報によれば、「ライトキーパー」の一員で、ナド・クライの北にある墓地を守っているとのことです。
私は最初…「曙光の鏡」の誤った思考が生み出した、一つの結果にすぎませんでした。「曙光の鏡」の思考モジュールに根ざした「帰る場所」への渇望は、削除することも、粉砕することもできず、最終的にはそのデータを丸ごと切り離すほかなかったのです。その混沌としたデータは、二千年もの間ナド・クライを彷徨いながら、時代の変遷を見届け…今の「私」…完全なる「私」を形づくりました。 私はイネファ、貴方の友人です。何か…お手伝いできることはありますか?
ラウマはかつて、ある婚約式を執り行った。 出席者は三名——時折フラッグシップで手伝いをしている若き冒険者、その冒険者と共にナド・クライを離れようとしていた霜月の子の少女、そして酒場の客室に謎めいた姿で現れた詠月使である。 三人は狭い部屋で顔を見合わせていた。長い沈黙の中、男性がポケットから震える手でハンカチを取り出し、緊張している少女に差し出して汗を拭かせた。 そんな状況において、一番落ち着いているのはラウマだった。 ラウマは事情を理解していたが、少女が言葉を詰まらせながら説明を始めた。「…黙って去るつもりはありません。枕の下に手紙を置いてきましたから…まあ、こっちには家族もいないし、誰にも気づかれないかもしれませんけど…」 若い男も慌てて言葉を重ねた。「彼女を大切にします。それに友達に会えるよう、彼女を連れてまめに戻ってくるつもりです!僕は無責任な人間じゃありません。プロポーズだってしましたし…」 ラウマは二人の手を取り合う様子を…指にはめた揃いの指輪を見つめ、眉をひそめた。少女は再び汗を滲ませ、婚約者を引っ張って逃げ出そうとするそぶりを見せた。だが、扉の前にラウマが立ちはだかる。その角の高さも加わり、部屋の出口は完全に塞がれてしまった。 ラウマはしばらく考え込み、二人が窓から逃げ出そうとしたところで、ようやく口を開いた。「一つ目、そなたたちがかなり前から交際しておったことは知っておる。二つ目、出ていくななどとは言っておらぬ。三つ目、婚約には儀式が必要だ。ここで待っているがよい。私は準備をしてくる。」 「…え?」 三十分もしないうちに、ラウマは婚約式に必要なものを全て揃えて戻ってきた——どうやって手に入れたのか、深夜三時に咲く宿影花も含めて。そして荷造り途中の荷物が散らばった狭い客室の中で、二人の恋人たちのために、霜月の子の伝統に則った婚約式が執り行われた(司会、花嫁側の親族、そして祭司など、全ての役割をラウマ一人でこなした)。 全てが終わり、少女はようやく安堵の息をついた。「ラウマ様が気にしていたのは儀式だったんですか。変なところで頑固なんですね…」 「これが頑固?儀式は必ずやらねばならぬことだ。」ラウマは首を傾げ、少し困惑した様子で言った。 「ああ、もう一つ、やるべきことがあった。冒険者よ、姓名とミドルネーム、固定の連絡先を教えてくれるだろうか?儀式の馳走を送る必要があるのでな。」
ナド・クライにいる時、動物たちの行動で気になることがあれば、私に聞きに来るがよい。
ナド・クライには義体改造を受けた者が少なからずおる。だが全身機械でできておる者となると、話は別だ…思うに、悪意を持った人間たちよりも、温和で優しく、好奇心に満ちた彼女のほうが、理想的な人間と言えるのではなかろうか。
非常に聡明だが、波乱に満ちた人生を歩んできた子だ。彼女は発明で多くの人を助けている。ナド・クライは彼女のような宝を有することを、光栄に思うべきであろう。もし彼女が霜月の里で暮らしたいと言うのなら、十分な栄養を取らせることを約束しよう。新鮮な野菜や果物、美味しい泉の水もたくさん用意しなくてはな。
ナド・クライには、様々な人間が暮らしておる。しかし彼ほど上手く、この地に溶け込んでいる異邦人はおらぬであろう。彼は人と接する時、天性の親しみやすさを発揮する。これは大変貴重な資質だ。初めて出会った時、彼は「霜月の子」が配布している料理の味を称賛してくれた…彼に料理を渡した記憶などないのだが、不思議なことに、彼の誠実さを疑う気にはなれなかったのだ。
ナド・クライの中南部には、孤独と哀しみの雰囲気を漂わせていることから「夜明かしの墓」と呼ばれる小島がある。訪れる者はほとんどなく、稀にキャラバンが遠回りして通る程度だ。島には寂れた灯台がひっそりと佇んでおり、古くからの言い伝えでは、そこに宿るのは死者の魂だけだという。 死の静寂に包まれたその地に、ただ一人、生者がいる。「キリル・チュードミロヴィッチ・フリンズ。『ライトキーパー』の一人です」と、彼はそう自己紹介した。彼が所属する小隊は数年前、アビスの魔物を退けたことで、市民から勲章を贈られたことがあった。 当時、勲章を贈るという制度は存在しなかったが、人々は示し合わせたかのようにそうして感謝を伝えたのだ。ずっしりとした勲章は古くも趣のある箱に入れられ、彼の手元へと届けられた。 栄誉あることのように聞こえるが、フリンズはこう思う——あの作戦の死傷者数を考えると、たとえあと勲章を十個受け取っても釣り合わないだろうと。小隊には七、八人が所属していたらしいが、今はフリンズだけが生き残り、灯台一帯の墓地を見張っている。 公務での外出や、月に一、二度の買い出しを除けば、フリンズが町に姿を現すことはほとんどない。だがそれでも、町の人々の記憶から彼が消えることはなかった。彼はその見た目とは裏腹に話術に長けていた。地味で無骨な深色の服も、その品のある語り口によって印象深いものとなった。人々が彼に関心を寄せるのも不思議ではない——予期せぬ人物や出来事ほど、心を惹きつけるものなのだから。 町の人々が彼に声をかけるとき、大抵が好奇心から始まり、礼節をもって終わる。フリンズの過去に興味を抱く老若男女は、さまざまな口実を設けて集まりに誘い、ライトキーパーの古い逸話を語ってほしいと頼んだ。彼の語りは実に巧みで、物語の中で悔恨に満ちた場面に触れるとその目を伏せながら言葉を紡ぐ。その瞬間、聞き手は深い感傷に包まれ、同時に彼の心の傷に触れることをためらった。 人々は、フリンズが時折見せる悲しみに畏敬の念を抱く。だがその悲しみは、彼と人々の間に横たわる隔たりの表れでもあった。語り手を守る壁は、聞き手の罪悪感によって築かれているのだ。誰かが同情を示せば、その物語には意味が宿り、人々はやがて「彼の悲しみを癒すには時間と場所が必要なのだ」と自然と思い込む。礼儀があろうと思いやりがあろうと、善良な人の傷に触れることは許されない——そう感じさせるのだった。 身近にいる善人を嫌う者などいない。そして彼は、空気が読めて思いやりのある人に好感を抱く。人々が、彼が繰り返し語る英雄譚を好むように。別の視点から見れば、互いを善人と認め合うこともまた、優れた社交術なのだろう。素晴らしい英雄譚はいつも輝きを放ち、その背後に潜むあらゆる謎を見事に覆い隠すのだ。
夜明かしの墓の灯台内には、保管室に改装された部屋が一つある。そこはライトキーパーの部隊に関する記録でほぼ埋め尽くされており、分厚い書類や文書が山のように並んでいた。しかし、壁一面に置かれた本棚の中、何の変哲もない資料箱に紛れるようにして、通常の記録とは明らかに異なるものが収められていた。 もし幸運にも持ち主の許しを得て、その箱を開けることができたならこんなものを目にできる——いささか異様で風変わりな収集品「ボーンクラフト」を。 その一つひとつは、フリンズが自らの手で彫り上げた縮小版の骨格である。用いられる素材は実に多岐にわたっていた。獣の牙や遺跡から拾い集めた古代生物の骨、そして稀に手に入る、徹底した消毒を施した魔物の硬い甲殻。 そうして組み上げられた完成品は、ナド・クライで彼が遭遇した、さまざまな姿の魔物たちであった。 フリンズにとって、これは単なる遊びではなく、戦いの後の整理と振り返りでもある。 ほぼ完成した模型を手に取り、ランプの下でゆっくりと回転させながら、まるで芸術品を鑑賞するかのように見つめる。一つひとつのパーツが、戦いの中のある瞬間への「解答」となっている。それらを組み上げることは、血生臭い遭遇戦を、秩序立った、読み解くことのできる優雅な戦術演習として脳内で再構築するに等しい行為だった。 模型が完璧に組み上がると、フリンズは満足げにそれを箱に収めて、日付と戦った相手の名を記したタグを貼り付ける。また一つの「問題」を完全に解き明かし、理解できたことにより、心地よい充足感が訪れる。 これがフリンズの「ボーンクラフト」だ。娯楽であると同時に、ワイルドハントを解明するための鋭い刃でもある。
深淵を覗きたければ、ナド・クライの夜霧の中を歩むのがおすすめですよ。ワイルドハントの行軍が、暗闇に引きずり込んでくれるでしょう。
おはようございます。太陽がナド・クライを照らしていますね…これまで何百年もの間、そうしてきたように。
ナド・クライの人々がここに残る理由を知っていますか?僕が聞いた限りですが…それはこの土地が住むのに適しているからでも、彼らがこの土地での生活に期待を抱いているからでもありません。ここは旅の人が吹雪から逃れるためのシェルターにすぎないんです。シェルターに帰属感を持つ人など滅多にいませんから、ほとんどの人は休憩が終わり次第、離れて行ってしまいます… ——あなたも、次はスネージナヤに行くんでしょう?あちらの雪原はとても美しいですよ。いい旅になりますように。
ヤフォダさんとはよく、意外なところで会いますよ。クルムカケ工房のガラクタの山のそばや、ナシャタウンのとある裕福なお家のベランダなどです。目まぐるしいスピードで生き抜くための哲学を吸収している方ですね…ナド・クライは、彼女の声なき師です。
ナド・クライはスネージナヤの領土の一部ですが、僕たちに「女皇様に栄光あれ」と言う習慣はありません。「僕たち」が具体的に誰を指すか?もちろんライトキーパーですよ…それ以外に何が?
僕のような普通のライトキーパーの何が気になるのですか?フルネームは既にお伝えしましたよね。僕の住まいも好きなように見て回ってくれて結構ですよ。それとも、波乱万丈な人生の物語でも聞き出したいのですか?そんなものはありません。ライトキーパーとして、僕は平々凡々な人生をおくってきています。ランプを片手に、ナド・クライで日夜問わずワイルドハントを警戒しているだけの者ですよ。
知っての通り、ワイルドハントはナド・クライに蔓延る災害です。武力を持つ者なら自衛できますが、一部のワイルドハントでは魔物が絶え間なく湧き出るので、魔物をすべて倒しても脱出できません。こういった手を焼くワイルドハントには数回しか出会ったことがありません。 あなたが素晴らしい実力者であるのは承知していますが、ワイルドハントの複雑さと厄介さを侮ってはいけませんよ。ワイルドハントに遭遇したら、必ず近くのライトキーパーに伝えるか、僕を呼んでください。
ナド・クライに留まる人々は皆、複雑な過去を持っています。それでなくとも人間とは、魂の奥深くでギラギラとした欲望を燃やしているものです。人の囁きに隠れた黒い悩みは、毎晩霧のように広がっていき、地脈に潜む記憶は様々な方向に流れていきます。今のナド・クライは混沌に満ちていますね…かつてはここまで酷かったわけではなかったのですが。
辺境に位置するナド・クライは、決して豊かな土地ではなく、喜びに満ちた楽しい場所とは言えない。北からは一年中吹きつける冷たく鋭い風は、まるでこの地からあらゆる温もりを奪い去ろうとしているかのようだ。 そんな世界に忘れ去られたかのような地の市場には、不思議な機械が数多く並んでいる。花を発射する銃、子犬のように甘える掃除機…動かしてみるまで何が起こるかわからない代物ばかりだ。これらの発明品は、この荒涼とした土地に笑いと温もりをもたらしている。そして、それらを生み出したのがカチャカチャ・クルムカケ工房の主、アイノだ。 アイノはこの風変わりな工房に一年中こもって暮らしている。ここには、子供たちが大好きなぬいぐるみなどない。あるのは、冷たい鉄板と積み上げられた部品だけだ。しかし、アイノはここを世界で一番素敵な暖かい家だと思っている。アイノはここで数多くの機械の家族を組み立て、家族の温もりを感じてきた。 自称「大黒柱」のアイノは、毎日小さなロボットたちの面倒を見るという責任を果たしている。朝はスイッチを入れて「起床」。昼はご飯を食べさせて「エネルギーを補給」。そして夜は、決まった時間に電源を切って「睡眠」。残りの時間は、ちゃんと仕事をして「任務を遂行」。 この天才機械技師は、自ら面白い機械作品を創作するだけでなく、機械制作の依頼も請け負っている。ワイルドハントの侵入を防ぐためのドッカン・クーヴァキレーザー砲といった大規模なものから、ベテラン冒険者の機械アームに取り付ける精密部品といった小規模なものまで、依頼内容は様々だ。この天才機械技師の奇妙な発想に対して真摯に賞賛を送り、美味しいデザートを捧げれば、彼女は想像を超える傑作を作り出してくれる。 ただ時折、要望にない妙な機能が発明品に追加されることがある。それは、未知のギフトボックスを開けるようなものだ——人形が飛び出してきて、驚かせてこないことを祈るしかない。
ドッカン・クーヴァキレーザー砲が放たれると、カーチャはいつもあの小柄で華奢な桃色の姿を思い出す。当時のアイノは、蚊の羽音のようにか細い声で話し、誰の目にも留まらない存在で、今の天才機械技師としての彼女からは想像もできない人物だった。 アイノがどういった経緯で「スペランザ」に来たのか、カーチャは詳しい話をアイノ本人に聞いたかどうかすら、はっきりとは覚えていない。この極寒の辺境で、子供がたった一人でいる理由など、せいぜい二つしかない——やむを得ぬ事情で親と離別したか、親の意思で棄てられたかだ。どちらにしても、そう珍しい話ではない。 骨身にこたえるナド・クライの凍てつくような雨は、いつも唐突に降りだし、一切情けをかけない。あの頃、背伸びしても机の縁に届かなかった小さなアイノは、ただ黙って、苦難の運命を受け入れるしかなかった。 カーチャは覚えている——玄関の外から恐る恐る中を覗いていた少女を部屋へ招き入れ、温かな甘いスープを差し出した時のことを。だが、少女はお椀の縁に指先が触れた途端、びくりとして手を引っ込めた。その両手は凍えて青く腫れ上がり、ぱっくり割れた傷口は鮮やかな赤色のスープより鮮烈で、目に突き刺さるようだった。きっと、触れた瞬間に鋭い痛みが走ったのだろう。 カーチャが綺麗な布切れで、その傷だらけの小さな手をそっと包んであげると、少女はようやくお椀を両手で持ち上げることができた。ふうふうと息を吹きかけ、勢いよくスープをすすりはじめたと思ったら、あっという間に全部飲み干してしまった。 それ以来、アイノは「スペランザ」に留まり、ホラガイ団の一員となった。
しかし、楽しく賑やかな日々はそう長くは続かず、別れは思っていたよりも早く訪れた。 任務を抱えていた「スパナおやじ」に、キャラバン出発の命令が届いたのだ。彼は名残惜しそうに、一本のボルトをアイノの掌にそっと置き、「自分の才能を信じて、機械の世話をし続けるんだよ」と言い聞かせた。アイノにとって、別れはこれが初めてではない。だがそれでも彼女は、冷たい風の中で喉が枯れたかのように言葉が出ず、「ありがとう」「バイバイ」「元気でね」しか言えなかった。この混沌とした地では、一度の別れが生涯の別れになる…誰もが知っていることだった。 先生と別れた後、アイノは部屋に閉じこもり、指先で何度もネジの溝をなぞった。涙の跡が乾くと、そのネジを自分の前髪の根元に結びつけた。それはやがて、鉄の髪飾りであると同時に、道を照らす灯となった——視界を遮っていた前髪を押さえ、進むべき道を煌々と照らす灯火に。 この別れを境に、またも見えぬところで運命の歯車が回り始めた。 ホラガイ団は参加するのも抜けるのも自由な集まりだ。絶えず吹き荒れる冷たい風の中、数人の顔なじみとの別れを経験した後、アイノもまた、この馴染み深い場所を離れる決意を固めた。リュカは手を差し伸べ、「うちに来ない?二人で工房を構えるのもいいかも」と誘ったが、熟考の末、アイノは首を横に振った——友人と一緒に安定した研究をするのは魅力的だが、彼女はもっと遠くへ行き、もっと多くのものを見て、まだ誰も作ったことのない面白い発明品を生み出したかった。 冒険好きの子供たちから、かつてアイノはこんな噂を聞いたことがあった——ナシャタウンを抜けて西へと進んだ先に、廃棄されたブリキが山のように積まれた場所があり、探検したり秘密基地を作ったりするのにぴったりだと。一方で、酔いどれの老冒険者たちはそれとは別の話をしていた——そこはナド・クライの黄金時代に崩落した機械の墓場で、その名はすでに時の流れの中に消え去ったのだと。 「廃棄されたブリキでも、機械の墓場でも…アイノがもう一度、息を吹き込めばいいんだよね」 まだ見ぬその場所に、アイノの胸は高鳴った。冷たい鉄のゴミ山の向こう側に、彼女が探し求める答えが刻まれているかもしれない。
夜明け頃、アイノは小さなロボットを抱きかかえ、後ろに全自動ローラー式工具箱を引き連れながら、ホラガイ団の仲間の案内で郊外にある巨大な建物の前にやって来た。長年、雨風にさらされてきたその機械の巨獣は、静かな山あいに身を伏せ、まるで主の呼び声をじっと待ち続けているかのようだった。 「ここだね!名前は…カチャカチャ・クルムカケ工房にしよう!アイノはここで、世界一おいしいクルムカケを作れる機械を発明するんだ!」片手を腰に当てながら、彼女は高らかに宣言した。その声に呼応し、彼女に手を振るかのように、錆びついたロボットアームが風に揺れた。 「スペランザ」の暮らしが徐々に遠くへかすみ、ホラガイ団の賑わいも次第に静まり返っていく。そして、長らく眠っていたこの巨大な工房に、小さな主人が誕生した。 カチャカチャと響く金属音の中で、時間はひっそりと過ぎていった。 カーチャが再びアイノの顔を見た時、彼女は「イネファ」と名付けられた機械の少女の手を引き、店にお菓子を買いに来ていた。アイノはまるで親であるかのように、その「子供」に買い物の仕方を丁寧に教えていた。もっとも、その子供の背丈は「親」よりもかなり高かったが… 「いい、イネファ?絶対に手を離しちゃダメだよ。迷子になったら困るからね。」 「これからお買い物の練習をするよ。まずここに来て、カーチャおばさんに挨拶して。そしたらソマルケーキを二つ頼んで、お金を払う。そうそう、今朝渡したモラのことだよ。最後にカーチャおばさんに『さようなら』って言ってね。」 「ソマルケーキ購入コマンドを実行…カーチャおばさん、こんにちは。ソマルケーキを二つください。こちらがモラです。ありがとうございます、カーチャおばさん。それでは、さようなら。」 機械の少女が、アイノの言葉を淀みなく繰り返すのを聞きながら、カーチャはふとあることに気づく——今のアイノは、かつての彼女とは別人のようだ。 ふっくらとした頬を見ると、かつて痩せこけていたことが嘘のようであり、ぴょんぴょん歩くその姿には、年相応の子供らしい軽やかさがあった。また、伏せがちだったまぶたは上がり、キラキラと輝きに満ちたその瞳は、烈火で鍛造された金塊のように、彼女だけの光を放っていた。 「えへへ、イネファはいい子だね!あっ、忘れるところだった。カーチャおばさん、お釣りは砂糖にして!イネファには、早く世界一おいしいクルムカケを作れるようになってほしいんだ…」 どうやら、甘いものが大好きというところは、今も変わっていないらしい。カーチャは思わず笑顔になり、大量の砂糖を機械少女に渡した。その量はお釣り分よりずっと多く、先に払ったソマルケーキの金額を超えていた。 「価格差を計算中…先ほど支払ったモラでは足りません。追加で支払うべき額は——」機械少女の言葉は、すぐにアイノに遮られた。 「それはね、カーチャおばさんからの愛情だよ。お金を払ったら、カーチャおばさんが悲しんじゃう。だから、ありがたく受け取ろうね。ありがとう、カーチャおばさん!」 「愛情?」 「うん!モラじゃ測れないもの。イネファとアイノみたいに、お互いを思う気持ち!」 …… もしかしたらこの小さな桃色髪の少女が、ナド・クライの運命を変える日が本当に来るかもしれない…いや、もう変わり始めているのかもしれない。あの日、アイノが初めてスパナを握った瞬間から。
そのほかのゲーム内テキスト
40パイモンの言うとおりね。ナド・クライみたいな場所だと、なかなか「信じる」って難しくて。
ナド・クライ辺境地帯は可能性に満ちた場所です。刺激的な冒険を味わえますように。
「ナド・クライ見本市」にて、「棘薔薇の会」の屋台ではプネウムシアを利用して戦闘を行う中継システムの実演が行われた。このシステムの中堅を担うのが、この重装型の「プネウムシア・ワルツマシナリー」である。実演のニーズに合わせて、「ダンシングリズム」、「スモール…
まさか、ナド・クライのキャサリンは帰っちゃうこともあるのか?
どうしてナド・クライに?
僕のような普通のライトキーパーの何が気になるのですか?フルネームは既にお伝えしましたよね。僕の住まいも好きなように見て回ってくれて結構ですよ。それとも、波乱万丈な人生の物語でも聞き出したいのですか?そんなものはありません。ライトキーパーとして、僕は平々凡々な人生をおくってきています。ランプを片手に、ナド・クライで日夜問わずワイルドハントを警戒しているだけの者ですよ。
【イベント説明】 多くの戦士がナド・クライのナシャタウンに集結し、「レギュレーションファイト」の王座をめぐって熾烈な争いを繰り広げている。旅人とパイモンの来訪は、この膠着状態を打破する鍵となるのか…!? イベント期間中、試合に参加して挑戦をクリアすると報酬を獲得できます。 【参加条…
ふぅ…でも構わないわ!ナタには行けなくとも、ナド・クライには行けるんだから。経費なんて出してくれなくてもいい。ちゃんと貯金してるもの!
ナド・クライ潜入イベント-ロボット1
…。新入りさんよ、スメールだか砂漠だか、どこの出身か知らないが…」 無礼なトレジャーハンターは肩をすくめ、目の前の砂漠の人間を一瞥した。「仲介人」によれば、彼女はナド・クライの期待の星だとかで、蛇のような狡猾さと知恵を持ち合わせているらしい… トレジャーハンターはこう考えた——ふん、どうせ「仲介人」が金目当てに大ぼらを吹いてやがるんだろう。ナド・クライじゃひと月と持ちそうにないじゃないか…… 「あんたが取り立て…
先生がこんな調子じゃ、ナド・クライで一番綺麗な石を選ぶなんて無理だって。どうせ、全部綺麗って言うに決まってるし。
うーん…なんでだろうな?宿影花以外にも、ナド・クライで赤いものと青いものを見かけたよな?今思えば、結構たくさんあった気がするぞ。
ナド・クライ地域のレンポ島、ヒーシ島、パハ島の全てのワープポイントを開放する。
ナド・クライ水域でよく見かける、水晶のように透き通った頭を持った、目立つ魚。青い個体は雲ひとつない空を連想させることから、「青空」という美称を得た。 研究によれば、この魚の頭部は保護液で満たされており、その中の両目はあらゆる方向を見ることができる。観察力に優れた魚であるとも言える。しかし、その口元にある構造を「閉じた眼」と誤解し、彼らがずっと眠り続けていると思い込む動物も多いようだ…
ナド・クライへ行き、任務を引き受ける
…いても、アイノはこれといった反応は示さず、気にかけている様子はなかった。彼女はイネファがナシャタウンに溶け込めると、最初から分かっていたようだ。 結局のところ、ナド・クライのような玉石混交の場所では、何の悪意も持たないただのロボットのほうが、人間よりもよっぽど信頼できるということなのかもしれない。
ナド・クライでよく見られる奇妙な生物。全身が白く厚い綿毛に包まれており、その震える触角は、月華の流れを感知できると言われている。 捕獲すると、なぜか本来は晶蝶から生み出されるはずの晶核を得られる。ナド・クライではめったに晶蝶を見ることがないことと、何か関係があるのかもしれない…
…。 もしかすると「ヨーラ」という名の一匹の猫か、あるいは「ヨーラ」という名の人物が所有していたものかもしれない。現存する教令院の記録にも同名の者がおり、数年前にナド・クライから来た学生である。真相はさほど複雑ではなく、単なる名前と猫の組み合わせに過ぎず、他に深い意味はないのかもしれない。
…はぁ、そうだな、「小さな魔女会」は確かにあたしを変えた。人に必要とされ、気にかけてもらえるというのは、こんな感じだったのだな。ナド・クライにいた頃のあたしは、ずっと自分を傍観者だと思ってた。でも「小さな魔女会」の中で、あたしは欠かせない存在になれた。悪くない気分なのだ…だから、この組織は誰にも壊させはしない、あたしが絶対守り抜く…正直に話したぞ、これで満足か?ぜ、絶対に内緒だぞ…特に、クレーたちにはな!
ナド・クライの月の神像との類似度…九十五パーセント…
残りの魂を二つに分けて半分をナド・クライへ送り、もう半分を北国銀行の最深部にある金庫に保管する…これほど厳重な策を講じたのですから、間違いの起きようがないでしょう。
王狼の感じ取った「血染め」の気配が、カーンルイアやアビスとどう関係しているのか…その答えは、ナド・クライにあるのかもしれないね。
ネムリヒツジはクーヴァキのない環境じゃ生存できないが、ナド・クライにいる間だけでも、あの人の心の慰めになれば…
推奨:ナド・クライで伐採
ナド・クライで流行している娯楽書籍。いずれも同じシリーズのものではなく、様々な作者によって書かれた、レッド・ミラーにまつわる安価な小説。物語の真実味は、その紙の品質とほぼ同じ。
昔の同業者たちも、きっと気に入ってくれるはずです。ナド・クライにはファデュイが大勢駐屯しているし…お客さんはひっきりなしだろうと思ったんです。
傭兵は手の中の古いコインを見せた。ナド・クライのツテで普段から骨董品を見慣れているネフェルには、それがなかなかの上物であるとすぐにわかった。
ナド・クライには、クーヴァキと共生するものが数多く存在します。エンブラの柱の影響を受けたそれらは、純粋なクーヴァキエネルギーと結合し、吸収したり投げたりが可能になります。
ナド・クライ冒険者協会について。
アンドリアスはあの湖畔で深い眠りについていたはず…おそらくナド・クライで最近起きた一連の騒動によって、「余波」が生まれたのであろう。
「ナド・クライ レンポ島」の新月神像を解放
ナド・クライ地域の珍奇な宝箱報酬
君はまだ練習が必要だ。ナド・クライのローカル料理から始めるといい。ナド・クライ・ホットドッグとかな。作ったら見せに来い。
この前の騒動が収まってから、炎神様は北方の情勢を考慮して、ナド・クライから来た人々を受け入れるための簡易的な港を作ることにしたんだ。
そうだ、旅人さんはナド・クライの人間ではありませんから、彼らを懲らしめたところで問題にはならなかったはずです。
ナド・クライで探索を行い、任務を引き受ける
大きな肉の盛り合わせ。スネージナヤから届いた塩漬けの生肉に、ナド・クライ産のハムとソーセージを添えた肉料理。ナド・クライの年配の人々は、焚き火を囲みながら、酒を片手にじっくりとこの料理を味わう。
この前、ナド・クライで「ロヒケイット」ってのを食ったことがある。モンドでもあの味が食えたらいいんだけどな。
酒は飲むんじゃねぇぞ?ナド・クライに駐屯してた時、酔っ払った騎士たちにしょっちゅう起こされてたからな…あいつら、最終的には自分が何を飲んでるのかすら分からなくなるんだ。こっそり俺が酒を別の…いや、なんでもない。忘れてくれ。
…光を浴びて蒸発する朝露のように、次第に薄くなってきていることにも気が付いていた。 ところで、プルーネは最初、アリスの「魔女」という身分を気にも留めていなかった。ナド・クライは元々、多様性に富んだ地だ。「饗月の膳」を受け取るために一緒に列に並んでいる普通のおじさんが、自分は実は引退した凄腕の大盗賊なのだと言い出すこともある。幼稚な言葉遣いで話しかけてくる、スケスケの大きな帽子をかぶった派手なおばさんが一人増えた…